埼玉医科大学学長 別所正美先生
Q1.埼玉医科大学の入試制度は大変特色のあるものです。どのような意図があるのかお聞かせください。
昭和60年までは現在の一般入試の後期日程にあたる入試のみを行っていましたが、昭和61年から推薦入試を導入、平成19年から一般入試を前期と後期の2回実施、そして平成25年からはセンタ-試験に参加、という具合に入試の多様化をはかってきました。入試を多様化することによって、様々な視点から優秀な人材を獲得したい、というのがその理由です。埼玉医科大学は埼玉県の地域医療の要としての役割を果たしており、地域の方々から大きな期待が寄せられています。また、大学設立当初は医師国家試験合格率の向上が課題でしたので、優秀な学生を獲得するための工夫が重ねられてきました。面接だけではなく、小論文や論述の導入も工夫の一つです。しかし、入試制度をいくら工夫しても入学試験の成績と入学後の成績との相関関係は乏しいことが判明しています。どのような入試を行えば良い学生を迎え入れることができるのか、永遠の課題だと思いますが、少しでも良い学生を獲得するための努力を重ねています。また、現在、全国の医学部の抱える大きな問題の一つに低学年時の留年・退学が多いことが挙げられていますが、本学も例外ではありません。どの大学も、入学後に伸びる学生を選抜しようと知恵を絞っているのが現状だと思います。
Q2.埼玉医科大学の教育の特徴について教えていただけますか。
学生への支援体制が手厚いことが特徴の一つとして挙げられます。医学教育センターの学習支援室や学生部が連携して学生の支援を行っています。学生5、6人に対して教員が1人ついて様々な悩みや学習支援を行うアドバイザー制度もあります。アドバイザーになる教員は立候補制ですが、手を挙げる教員は多数で、皆さん、とても熱心です。アドバイザーが問題を発見した場合には速やかに学生支援室がフォローすることで、大学全体でバックアップし、問題を解決する体制を整えています。他にも、学年小委員会や卒前教育委員会などに学生の代表者が参加しています。また、学生課の前に置かれた意見箱を通して学長の私に直接意見を述べることができる制度もあります。さらに全国にある保護者会へも出向き、カリキュラムや進級制度などについて直接説明し、希望に応じて個別面談なども行っています。これらの制度は全て、本学の建学の理念の一つである「師弟同行の学風」を具現化したものです。この結果、学生と教員間のコミュニケ-ションはスムーズで、これは本学の大きな特色の一つだと思います。
また、カリキュラムに関してですが、現在話題となっている国際認証を踏まえた分野別認証に対応するため、新カリキュラムの運用を今年の1年生から開始しました。これからの時代は、大学間の国際交流は、認証を受けた大学同志での交流が盛んになるのではないかと思います。国際認証を踏まえた医学教育の分野別認証に関しては、認証団体(日本医学教育評価機構)の設立と運営に私も深く関わってきました。この認証制度は、日本が国際的な立場にたって、世界の医療に貢献するための基礎になるものと期待されています。
このほか、本学は今、研究医の育成にも力を入れています。「埼玉医科大学の期待する医療人像」にも、研究マインドを持った医師の養成が謳われていますが、昨年から本格的に研究医の養成コースをスタートさせました。さらに、研究医養成コース以外の学生に対しても、興味を持った学生はいつでも研究室の活動に参加できるよう、課外プログラムを整備しています。基礎医学に興味を持つ学生が1人でも増えてくれることを望んでいます。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は東京下町の出身で、都立高校から東京医科歯科大学に進学しました。高校生の頃は医学以外にも様々なことに興味がありましたが、助産師の母や医学部に進学した兄の勧めもあり、医学部に行けばいろいろなことを学ぶことができるとも考え、医学部への進学を決めました。医学部への入学後は、基礎医学の研究に大変関心がありましたが、臨床も経験してみたいと考え、卒後は内科に進みました。入局した内科教室を主宰していた教授が、とても理解のある方で、研究に興味があるなら是非やってみなさいと背中を押してくれました。教授の推薦もあって放射線医学総合研究所に5年間在籍しました。当時は放射線障害の一つである白血病の研究をしていました。その時から血液内科の基礎研究をしてきました。その後、研究所の恩師が埼玉医科大学に異動することになり、後を追って私も埼玉医科大学の第1内科に赴任しました。大学では、診療のかたわら、実験をしたり、大学院生の指導をしたりしました。その後、いろいろな経緯があり、今は学長として大学の運営に関わっています。
Q4.医学部の定員は増加しており、将来の医師には今と異なる状況に直面することが予想されます。医師を目指す受験生はどのような意識を持つべきでしょうか。お考えをお聞かせください。
今の学生が卒業し、医師として活躍する頃には高齢化が進むとともに、人口も減少することが予想されます。そのような社会では、患者と接して医療を行うことにやりがいや満足感を持つことができる人が医師になるべきだと考えています。したがって、ただ知識を持っているだけでは不十分で、患者の立場に立ち、患者とのコミュニケーションを円滑に取ることのできる医師が求められています。医師の絶対数は足りていても、地域や分野によっては不足しています。私は血液内科医ですが、血液内科の仕事は激務ですから、なかなか希望者がいません。また、医師の仕事に限界はありませんから、患者が求めているもの、つまり人間的な触れ合いやコミュニケーションをとることに喜びを感じることのできる医師には、仕事が無くなることはないと思います。
医学の勉強は本人が自覚を持ってすることが重要です。医学部への進学を希望している受験生の皆さんには、自分から学習する積極性を求めたいと考えています。大学では、カリキュラムに沿って学習をしていけば、医師という資格を得る上では問題はないと思いますが、それ以上のことに自分から興味を持って取り組めば、より人間的な成長が望めると思います。勉強だけでなく、課外活動やボランティア活動などにも積極的に関わってほしいと思います。
関連リンク 埼玉医科大学ホームページ
略歴
昭和52年3月 東京医科歯科大学医学部卒業
昭和52年5月 東京医科歯科大学医学部付属病院第1内科研修医
昭和54年8月 科学技術庁放射線医学総合研究所技官(59年米国UCLA留学)
昭和60年1月 埼玉医科大学第1内科 助手
昭和61年3月 埼玉医科大学第1内科 講師
平成2年7月 埼玉医科大学第1内科 助教授
平成9年4月 埼玉医科大学第1内科(血液内科) 教授
平成14年12月 埼玉医科大学付属病院 副院長併任
平成15年8月 埼玉医科大学 副学長併任
平成17年4月 埼玉医科大学 医学教育センター長併任
平成22年4月 埼玉医科大学 医学部長、医学研究科長
平成23年8月 埼玉医科大学 学長
社会活動
全国医学部長病院長会議 会長(平成24年~25年)
全国医学部長病院長会議 顧問(平成26年~)
日本医学教育評価機構 副理事長(平成27年~)
共用試験実施評価機構 理事(平成25年~)
ライフサイエンス振興財団 評議員(平成23年~)
女子栄養大学 評議員(平成26年~)
学会活動
日本内科学会評議員(平成10年~)
日本血液学会評議員(平成2年~)