愛知医科大学医学部教授 岡田尚志郎先生
Q1.愛知医科大学の特徴や校風などについて教えていただけますでしょうか。
愛知医科大学は1971年に設置認可を受け、1972年から開学した比較的新しい医科大学です。研究所や病院が母体となって作られた大学ではなく、初代理事長の太田元次先生の「地域に貢献できる医師を育てたい」という思いによって作られた大学であるという点が大きな特色だと思います。太田元次先生は汪兆銘を診察し、看護した軍医として有名な方です。先生の理想や思いが今の本学の礎となっています。
現在では、愛知県のみならず、東海地方の地域医療を支える存在として、使命を果たしています。多くの卒業生が開業医として地域医療の現場で活躍しています。
本学は愛知県の長久手にキャンパスがあります。長久手は戦国時代に豊臣秀吉と徳川家康が戦った小牧・長久手の戦いの戦場として有名ですが、大学や博物館、美術館などが多く、愛知県内でも文化の発展した地域です。名古屋の都心へも近隣の駅から地下鉄で行くことができます。この地域は大学生活を送る上で、最高の環境が整っていると思います。
2014年には、先進医療を担う高機能病院としての新病院が開院しました。学生は今まで以上に充実した環境で、診察、手術の見学や実習活動を行うことができます。今後もより充実した教育環境の整備を行っていきたいと考えています。
Q2.教育の特色やカリキュラムのことについてお聞かせください。
現在は医学教育にも国際化の波が押し寄せる時代であり、本学も平成31年受審に向けて、国際認証に対応したカリキュラム作成の準備を進めています。国際認証基準に準拠すると臨床実習時間を大幅に増加せざるを得ず、結果として臨床前教育の座学の時間が減少しています。その結果、解剖学、生理学、生化学などの基礎医学を低学年のうちから履修せざるを得なくなってしまいました。このことが、全国的に2年生で留年する医学部学生が増えてしまった原因の一つではないかと思います。現在本学においては、1学年で約86%の学生が入学してから卒業するまで留年せずに進級しています。けっして誇れる数字ではありませんが、カリキュラムを新しくした後も、できるだけ学生が留年することのないように様々なフォローを行っていきたいと考えています。
また、医師として医学的知識や技術を修得することは重要なことですが、正しい倫理観や価値観をもち、生涯学習の習慣を身に着けることが医師としての第一歩であるという考えから、1年次に「医療人入門」という授業を行っています。さらに臨床医学事始めとして、『臨床入門IおよびII』も導入しています。スマートフォン世代の学生は、本を読む習慣がなく、文章を書く能力が非常に低い学生も多いように感じます。しかし、元来、学生の能力は非常に高いものがありますので、勉強の仕方を教えてその能力を最大限に発揮できるような教育を行っています。
国家試験対策としては、対策講座を開いて学習支援を行っています。講座によって、問題を解くコツをつかみ、点数を伸ばす学生もおりますので、着実に成果は上がっていると思います。また、実習で忙しい5年次に学力を落とすことがないよう、復習用の教材を用意したり、授業を行ったりするなどの対策も講じています。
国際認証基準で求められている地域基盤型医学教育に対応するために、地域の現場へ学生を分散させ、地域に密着した臨床実習も順次導入するように計画しております。教員の配置や教育方針の確認などいくつかの課題はありますが、実現できるように努力しています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は鳥取県米子市の出身です。高校生くらいのころから、医学部の人気が高まり、東大に合格できるような学生が地方の医学部を目指すようになりました。米子に予備校などは当時ありませんでしたので、浪人生活は苦労しました。米子から医学部を志望する人は鳥取大学医学部へ進学することが多いのですが、私は亡父の母校であったこともあり、岡山大学医学部へと進学しました。
岡山大学卒業後は臨床医をしていましたが岡山大学の脳代謝研究施設・脳代謝精神科(現神経内科)で研究したことをきっかけに研究者になろうと決心し、アメリカのオハイオ州立大学へと留学しました。アメリカでは本場の厳しくも充実した大学院生たちの研究者生活を目の当たりにし、百聞は一見に如かずの貴重な経験をしました。その頃は大変苦労しましたが、あの経験が今に活きていると思います。
その後、日本へ帰国し、高知大学に赴任しました。帰国した時すでに40歳を超えており、日本の大学で採用されるか不安でしたが、高知大学で助手から再出発することができました。高知大学では副腎髄質からのアドレナリン分泌の中枢制御機構に関する研究を主に行いました。13年間の高知大学での研究生活においては、年齢の近い異なる講座の同僚たちと研究や学生教育について大いに議論(飲みニュケーション)しました。
愛知医科大学に移って、今は学部長として教育活動を行うとともに、大学の運営にも携わっています。
Q4.愛知医科大学への進学を希望する受験生へのメッセージをお願いいたします。
自立した学生を求めています。自分で考え、決断し、自分の責任において行動できる人材を求めています。予測不能な出来事が起こった際に医師として正確な対応ができる人材を養成していきたいと考えています。今後、AIが発達し、医師の存在意義が問われる現代社会の中で、自分で考えて行動するということが非常に重要だと思います。学生には、充実した学習環境の中で勉強できることを最大限に活かして、学習してほしいと願っています。また、入学した学生を締め付けたり押し付けたりすることはせず、学生の自由を尊重しながら教育していきたいと考えています。入学後は生理学の授業が最初の難関だとは思いますが、そこさえ乗り越えてくれれば、後の勉強はスムーズに理解できるようになるはずです。
卒業後は,多くは開業医として地域医療を支える医師になると思いますが,小さな病院を営む以上は様々な症例を扱わざるを得ません。現在国が進めている地域包括ケアシステムの構築を考慮すれば、愛知医科大学としても、将来的にジェネラリストとして活躍できる総合診療医のような地域密着型医師を育てることが大きな柱になるかと思います。
私立大学として研究環境の充実にも力を入れています。学会で発表を行う学部生も数名いるなど、研究医の養成にも力を入れています。本学の卒業生が他大学で、教育、研究そして診療に携わるスタッフとして活躍できるようになることが今後の目標です。
関連リンク 愛知医科大学ホームページ
略歴
昭和59年3月 岡山大学医学部卒業
昭和63年3月 岡山大学大学院医学研究科修了
平成16年5月~平成20年3月 高知大学医学部神経薬理学助教授
平成20年4月~平成23年3月 高知大学教育研究部医療学系医学部門薬理学講座准教授
平成23年4月~現在 愛知医科大学医学部薬理学講座教授
平成26年4月~現在 愛知医科大学医学部長・医学研究科長
平成26年4月~現在 愛知医科大学副学長
平成26年4月~現在 学校法人愛知医科大学理事・評議員