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札幌医科大学医学部教授 堀尾嘉幸先生

医学部進路の決め方

Q1.札幌医科大学の教育活動に関して、特色などありましたらお聞かせ下さい。

全国の医学部はどこでも医学教育分野別認証への対応に追われていると思いますが、本学も3年前から新しいカリキュラムを導入しました。これまで5年次から始めていた臨床実習を4年次の冬から実施するように変更し、54週間の実習を72週間に増やします。また、実習の増加に伴って講義のカリキュラムも見直しました。臨床の講義時間を1割削って実習を行うこと、1年次にも教養科目だけでなく医学教育も行っていくことなどが主な変更点です。更に、授業時間を確保すべく、長期休みの日数を減らすことで対応しています。学生は一科目で覚えるべき量が増え、試験の負担が少し重くなりました。授業の最後に小テストを実施するなど、定期試験以外にも学習の定着を見る試験を行うなど、教員側も様々な対策を講じています。地域での実際の医療現場の体験学習の機会の導入は、医師になる自覚や責任感を持ってもらうことを目的として行っています。学生には都会で生まれ育った人が多く、地域医療や過疎地の医療実態についてのイメージが湧かない学生が年々増えています。2年次の看護師職業体験、3年次に行っている地域の小さな病院を訪問しての実習活動などを通して、チーム医療や地域医療に関心を持ち、理解のある医師を養成することを目指しています。
健康問題や精神的な問題、やる気の低下などで勉強についていけなくなってしまった学生に関しては、各学年の担当の教員がフォローを行っています。医学部は他の学部と比べて学生同士の連帯感が生まれやすい学部ですので、学生同士で教えあって足りない部分や苦手な分野を補い合うこともあり、そのような関係がうまく機能している学年は、国家試験の合格率も高い傾向にあると思います。

札幌医科大学 札幌医科大学医学部医学部長 堀尾嘉幸先生

Q2.札幌医科大学の抱えている課題にはどのようなものがありますでしょうか。また、学生を指導していてのご苦労などありましたらお聞かせ下さい。

研修医制度が変わってから、大学病院に残って研修を受ける学生が少なくなってしまったことは大きな問題の一つです。このために地域の医療を支える医師を十分に派遣できなくなり、地域医療の維持に支障が出ており、また、大学での医学研究の進展にも影響が出ています。学生にとって大学病院で研修を受けるメリットは多いと思っていますが、学生にそれがうまく伝わっていない現状があると思います。大学病院に残らなくても、北海道の民間病院で研修を受け、その後も北海道で活動している人の数は多いというデータもありますので、大学病院に残ってもらえるように学生へ働きかけを行っていく必要があると感じています。
本学は北海道の地域医療を支えることが大きな使命です。北海道は広く、医師の数は限られていますので、医師の偏在が大きな社会問題となっています。産婦人科の医師や小児科の医師がいなければ子育てをすることもままなりませんが、広い面積で人口の少ない地域に複数の医師を常駐させることは限界があり、そう簡単に解決できる問題ではありません。
北海道の地域医療を支えるという面では、本学も推薦入試を導入しています。これは地域枠と呼ばれるもので、北海道に卒業後も残って活動する医師を増やすための制度です。制度を始めたころは非常にレベルの高い学生が推薦制度を利用して入学していましたが、近年は推薦入試で合格した学生の学力レベルが必ずしも高いわけではないことも問題となっています。更に、これはどの学生にも言えることですが、ここ数年、学生のマナーの悪さが目立ちます。しっかりした学生も多い一方で、授業中にもかかわらず授業とは関係ないことをしていたり、教授との面談の約束を事前に取ることができなかったりと、社会人としての常識に欠けた学生が目立ちます。医師である前に社会人として最低限の常識とマナーは身につけてほしいと思っています。
また、学生は専門医への意識が非常に高く、私はそこに一抹の不安を抱いています。学生の多くは最短で専門医の資格を取ることばかりを目指していますが、もっと様々な経験を積むべきだと思います。時間がかかったとしても、回り道をしながら勉強した方が良い医師になれるのではないかと個人的には思っています。
学生の専門医への意識の高さは、研究医の養成を難しくする一つの理由にもなっています。いくつかの大学では、研究医のためのコースを設けるなど、様々な取り組みがなされているようですが、制度を整備しても希望者が集まらず苦労する場合もあるとも聞いています。本学でも、研究に強い興味を持つ学生は一学年に数名いるかいないかというのが現状で、基礎医学を志す学生はめったにいません。これは学生を集める段階から考えていかなければならない問題だと私は考えています。臨床医になりたいと思っている学生ばかりではなく、生物学や化学などの研究に興味のある学生を積極的に医学部に迎え入れて教育することが重要なのではないでしょうか。研究に強い興味を持つ学生は、臨床にも強い興味を持つものだと思っています。

札幌医科大学

Q3.先生ご自身のことについてお聞かせ下さい。

私は大阪府出身です。高校は北野高校に通いました。もともと研究者になりたいという夢があり、中学から高校時代初めは理論物理学に興味を持ちました。物理の本を自分で買って読んだりしていましたが、自分の頭は理論物理ができるほどに良くはないとわかって、物理から生物へと興味が変わっていきました。また、当時、母親が輸血後の肝炎になったりして、治らない病気や治りにくい病気もあることを知って、医学研究に取り組みたいと思ったことがきっかけで医学部を目指しました。一年間浪人して(入試の国語が易しかった)弘前大学の医学部へと進学しました。大阪から青森に移って環境が大きく変化しましたが、それほど不便を感じることはなかったように思います。
医学部を卒業後、大学院に進学しました。大学院に進学する際、収入が得られるかどうか最初わかりませんでしたので、実家から通える大学院に進学しました。基礎研究で、人工肝臓の研究も行っていた大阪大学の大学院に進学しました。入学後の研究内容は人工肝臓とは全く縁も所縁もないようなものでしたが、その時に習った研究方法や考え方は今でもとても役立っています。更に、学生時代の臨床実習もとても面白いと感じていましたので、入学後に大学院の指導教授にお願いして、臨床の仕事も紹介してもらい、当直などをしながら基礎研究を行っていました。その病院の院長は京都大学で基礎研究をした経験のある方で、昼は研究、夜は当直の私を大変気遣って下さる理解のある先生でした。大阪大学ではその後、助手になり、三年間研究を行った後アメリカへと留学しました。アメリカのスタンフォード大学に留学しましたが、そこの指導教授が私の留学後にスタンフォードからノースシカゴにある民間の研究所に移り、私も移って研究に取り組みました。2年足らずの留学時代はとても有意義な研究生活を送ることが出来ました。短いけれども的確なアドバイスをいただいたその教授は、後にノーベル賞をとられ、今も研究を行っています。その後大阪に戻って研究を進めている時に札幌医科大学で教授の公募があり、北海道へと赴任することになりました。なぜか北方に縁があるようです。その後は本学で研究と教育を行っています。

Q4.札幌医科大学を目指す受験生にメッセージをお願い致します。

この大学は自由闊達な雰囲気があることが特徴です。女子医専を元に開学しましたが、初代学長の強いリーダーシップによりアメリカの最先端医学を先がけて導入してきた歴史があります。日本で最初に脳神経外科を作るなど、先駆的な挑戦を続ける学風があります。入学してくる学生にも、チャレンジする精神をもった人を求めたいと思っています。
また、面倒見がよいことも本学の長所の一つだと思います。教員だけでなく、事務職員までもが学生の面倒をよく見てくれています。このような体制は国公立大学では珍しいと思います。
入学後は、課題を適当にこなすのではなく、一つ一つ丁寧に行うことが求められると思います。医学部は覚えることが多いですが、覚えた上でその知識を応用できることが大切になります。意欲のある学生と共に勉強できることを楽しみにしています。

関連リンク 札幌医科大学ホームページ

ほりおよしゆき
堀尾嘉幸先生 略歴

現職
北海道公立大学法人札幌医科大学・医学部・教授

学歴
昭和56年3月31日 弘前大学医学部 卒業
昭和56年4月 1日 大阪大学大学院医学研究科入学 (薬理学第二教室)
昭和60年3月31日 同修了

職歴
昭和60年 4月 1日 大阪大学非常勤医員 (医学部附属病院, 基礎系医員)
昭和60年 5月 1日 大阪大学助手 (医学部 薬理学第二教室)
昭和63年 6月18日 米国 Stanford University, Visiting Professor Division of Clinical Pharmacology
昭和63年 9月20日 米国 Abbott Laboratories, Research Fellow (平成2年4月まで)
平成 6年11月17日 大阪大学講師 (医学部 薬理学第二教室)
平成 9年 4月 1日 大阪大学助教授 (医学部 薬理学第二教室)
平成11年 8月 1日 札幌医科大学教授 (医学部 薬理学講座)
平成26年 4月 1日 札幌医科大学医学部医学部長・医学研究科長  現在に至る

研究内容と指導を受けた教授
昭和56年 4月~昭和63年 5月 大阪大学医学部第二薬理 (和田博教授)
    アミノ基転移酵素 (GOT) の研究
昭和63年 6月~平成 2年 4月 米国 スタンフォード大学、Abbott研究所
    Ferid Murad教授, MD, PhD(ノーベル医学生理学賞受賞者)
    グアニル酸シクラーゼ(cGMP合成酵素)の研究
平成 2年 5月~平成11年 8月 大阪大学医学部第二薬理
    平成2年まで : 和田博教授
    平成4年より : 倉智嘉久教授;K+チャネルの研究
平成11年 8月~ 札幌医科大学(医学部 薬理学講座)
    長寿遺伝子産物SIRT1(タンパク質脱アセチル化酵素)の研究