長崎大学医学部教授 栁原克紀先生
Q1.長崎大学医学部の特色についてお聞かせください。
長崎大学医学部は、1857年にオランダ海軍軍医のポンペ・ファン・メーデルフォルトが長崎奉行所西役所医学伝習所で医学伝習の講義を開始したことに由来しています。ポンペは日本における西洋近代医学の創立者であり、長崎大学医学部は来年で創立160周年を迎える、日本で最も歴史のある医学部です。今でもポンペの教えは建学の理念として大切にされており、深い医学知識と豊かな創造性、高い倫理観を持った医師及び医学者を養成することを医学部医学科の目標としています。
大学の特色として、国際的に開かれたグローバルな大学であることが挙げられると思います。学生の中には、大学を休学して海外の大学に語学留学している人も居ます。また本学にも海外からたくさんの留学生が来ていますので、キャンパス内は非常に国際的な環境です。
医学部医学科としては、研究と臨床の双方に力を入れた教育活動を行っています。
研究では、原爆後障害医療研究所、熱帯医学研究所において、特色のある研究を盛んに行っています。二つの研究所は国際的にも有名で、海外から留学生や研究者が訪れて研究を行っています。原爆後障害医療研究所では、被爆地である長崎の大学として、原爆後遺症の研究を長年にわたって行ってきました。最近では、2011年の東日本大震災の際の福島第一原子力発電所での事故による放射能飛散に関しての健康調査などに協力すべく、研究所から福島県立医大に人材を派遣して支援を行っています。熱帯医療研究所は、感染症の研究で国際的に知られていますが、近年は温暖化による感染症の広がりや、デング熱など国内の感染症に関しても、研究を行っています。
臨床においては、長崎県の地域医療全般に幅広く貢献するとともに、長崎県は離島が多いため、離島における地域医療を支えてきました。島嶼部は高齢化や過疎化が深刻ですし、設備や人員も限られています。そのような環境の中で最善の医療を提供できるよう、様々な工夫やノウハウを蓄積してきました。授業においても、離島・へき地医療学講座という寄付講座を行って、学生を教育しています。
Q2.長崎大学医学部のカリキュラムの特徴についてお聞かせ下さい。
グローバルな気風のあるこの長崎大学で、国際的に活躍できる医師、医学者を養成したいという思いから、英語教育には力を入れています。コミュニケーション力を磨くために、少人数での英語の授業を今年から始めました。学生に5、6人ずつのグループになってもらい、海外からの留学生を2、3人チューターとして参加させ、このグループで医学に関する討論を英語で行う授業です。学生によってもちろん英語力に差はありますし、活発に会話をする学生もいれば、なかなか会話に参加できない学生もおりますが、耳を鍛える、会話のスピードに慣れていくなど、徐々に英語力が上がる一つのきっかけになればと考えています。日本の人口が減少していく中で、海外から人が日本に流入する可能性がありますし、逆に海外に活躍の場を求める可能性もあると思います。その両方の場合で必要になるのは、やはりコミュニケーションのための英語力です。同僚が外国人になれば、診察する患者が日本人であったとしても、職場で使う言語は英語になります。英語で大人数に講義をするのはなかなか難しいですから、まずは少人数のグループワークで将来必要になる英語の力を高めてほしいと思います。
医学部医学科としてのカリキュラムは国際認証への対応をうけて大幅に変更になりました。臨床実習の時間を増やすために、講義の時間を削らざるを得ず、本学科では講義の時間を90分から60分に変更して対応しました。今までの講義から内容を凝縮して、学生には自主学習を促すような教材を配布するため、講義時間を減らしてもなるべく講義数は変更しないように配慮しました。講義を行っている先生方には資料を全て作り直すなど、大変なご苦労をおかけしましたが、何とか講義時間の短縮を行うことが出来ました。学生は、自由時間を少人数でのグループワークに充てています。グループ学習のための教室を用意し、図書館も開館時間を延長するなど、環境面での対応も行いました。国家試験においても、グループでの自主的な学習を後押しして、合格率の向上を図っています。
また、医師としての正しい倫理観を持つための授業や、一、二年生時の共習授業は本学科独自のものです。特に共習授業では、医学部、歯学部の他に長崎市内の他大学の保健学科の学生と共同で学習を行っています。他学部、他大学の学生との交流の中で、学生の視野が広がり、モチベーションが向上するなど、効果が上がっていることを実感しています。情報の中から答えを探すことに熱中するあまり、じっくり考えたり、自分の意見を述べたりすることが苦手な現代の学生にとって、グループ学習は非常に有意義なものであると考えています。
卒業後のキャリアに関しても、多くの学生に大学病院に残って働いてもらえるよう、大学と大学病院が協力して大学病院の働き方改革を行っています。大学病院を若い世代が働きやすいような場所に変えるような対策を講じることで、大学病院に残る学生が増えるように働きかけています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせ下さい。
私は長崎県の生まれです。小学生くらいから、ぼんやりと医師になりたいと思っていました。高校は長崎西高校でしたが、勉強を本格的に始める高校二年生の時に、父が胃がんで急死したことで強く医師を目指すようになりました。そのころ、運悪く長崎大水害が家を襲ったせいで半年くらい勉強をすることが出来ず、そのせいもあって浪人してしまいましたが、一浪後に長崎大学医学部に合格することが出来ました。大学在学中は勉強も大変でしたが、家計を助けるために家庭教師のアルバイトもしていました。医学部卒業後は、父が胃がんで亡くなったこともあって消化器科に進むことを考えていました。長崎大学医学部は当時から感染症の研究が盛んであり、海外に留学して基礎医学の研究をしたことをきっかけに感染症の研究の道へ進みました。アメリカなどの海外では、研究者は待遇や給与の面で日本より優遇された環境で研究することができます。日本よりも研究の環境が整っていると感じました。日本も若くて優秀な研究者にもっと多くの研究費を出すようにしていかなければならないのではないかと思います。
学生を指導していて、自分が学生だった頃と比べて能力が低くなっていると思ったことはありません。むしろ、我々の時代よりもまじめな学生が増えた印象です。しかし、自分で本を読んだり考えたりすることは少なく、課題を解いたりたくさんの情報から正解を見つけたりする方が得意なのだろうと感じます。
Q4.長崎大学医学部を目指す受験生の方にメッセージをお願い致します。
長崎大学医学部はこれからますます国際化を推し進める一方で、地域医療への貢献も行っていきたいと考えています。医師として、医学者として国際的に活躍したいと考えている人、長崎県の地域医療に貢献したいと考えている人にはぜひ受験していただきたいと考えています。本学としても若い世代の医師、医学者が活躍できる環境を整えていきたいと思います。
そして最後に、ポンぺ・ファン・メーデルフォルトの言葉を贈りたいと思います。
「医師は自らの天職をよく承知していなければならぬ。ひとたびこの職務を選んだ以上、もはや医師は自分自身のものではなく、病める人のものである。もしそれを好まぬなら、他の職業を選ぶがよい。」
関連リンク 長崎大学ホームページ
現職
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
病態解析・診断学分野(臨床検査医学)教授
長崎大学病院検査部 部長
東北大学非常勤講師
愛媛大学非常勤講師
略歴
1991年 長崎大学医学部卒業、第二内科入局
1991年 長崎大学医学部付属病院第二内科勤務
1992年 佐世保市立総合病院勤務
1993年 長崎大学大学院(内科学)入学
1997年 長崎大学大学院(内科学)修了
1997年 米国ネブラスカ大学 生化学分子生物学教室 研究員
1999年 長崎大学第二内科・助手
2002年 長崎大学医歯薬学総合研究科・助手
2006年 長崎大学病院検査部・講師
2007年~2012年 同感染制御教育センター・副センター長(兼任)
2011年~2012年 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
病態解析・診断学分野 准教授
2013年~ 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科
病態解析・診断学分野 教授
長崎大学病院検査部 部長
2015年~ 長崎大学医学部 副医学部長(兼任)
専門医
日本内科学会認定医
日本感染症学会専門医・指導医・ICD(Infection control doctor)
日本臨床検査医学会臨床検査専門医
日本呼吸器学会専門医・指導医
日本化学療法学会抗菌化学療法指導医
日本臨床微生物学会認定医
学会活動
日本感染症学会理事
日本環境感染学会理事
日本臨床微生物学会理事
アジア太平洋臨床微生物感染症学会(APSCMI)理事(treasurer)
日本臨床検査医学会評議員
日本化学療法学会理事
日本呼吸器学会代議員
日本結核病学会評議員
日本DDS学会評議員
受賞
2001年上田記念感染症・化学療法研究奨励賞
2005年化学療法学会学術奨励賞
2005年マクロライド新作用研究会奨励賞
2005年国際化学療法学会市中肺炎会議Best Poster Award
2006年日本内科学会奨励賞
2011年日本臨床検査学会学術賞