広島大学医学部医学部長 秀 道広先生
Q1.広島大学医学部の特徴についてお聞かせください。
広島大学は、1929年に広島文理科大学が創立されて以来、80年以上の歴史を持つ伝統ある大学です。広島大学の他の多くの学部は東広島市にキャンパスを持ちますが、医学部の学生は主に広島市内のキャンパスで学びます。広島は、長崎と共に第二次世界大戦で原爆の被害を受けた都市であり、街の様々なところにその影響が残されています。原爆の恐ろしさを今に伝える象徴として原爆ドームがありますが、広島大学も原爆で校舎を焼失した後、戦後に再建されました。
現在の広島市は、都会ですが大き過ぎることもなく、文化・芸術・スポーツが盛んで、海も山もあり、暮らしやすく、勉強しやすい発達した都市と言えると思います。特に医学部のキャンパスは広島駅から近いところにあり、商業地へのアクセスも良く、環境は申し分ありません。
入学者の四割は広島県出身で、3割程度が女子学生ですが、近年この割合は概ね一定しています。一人暮らしをしている学生の中には生活リズムを崩してしまう学生もいますが、学生支援室が中心となってフォローを行っています。学生への支援は手厚いものがあると思います。
本学医学部が大切にしている理念の1つは、人間性豊かな人を育てることです。近年、広島県の医師の供給は不足する傾向にありますが、広島県内では本学が唯一医学部を持ち、広島県の医療を支える臨床医の育成は本学の大きな使命です。そして本学医学部にはもう一つ、国際的な医学、医療を牽引していくという役割があります。この二つの役割を両立することは容易ではありませんが、広島大学はその規模と伝統を踏まえ、いずれも疎かにすることはありません。学生には、将来医師として広島県の地域医療を支える姿勢とともに、世界に目を向け、医学全体に貢献するという志を持って欲しいと思います。また、医療チームにおいて、是非リーダーとして活躍する人となって欲しいと期待しています。様々な現実に対処できる高い適応力を養い、医学という不完全な学問の先端を切り拓く研究者として、病んだ人のために、今の自分の限界を越えることに挑戦できる医師を育成していきたいと思っています。
Q2.広島大学医学部の教育に関して、特色などお聞かせください。
世界の医学教育の現場では、プロフェッショナリズムという言葉がキーワードになっています。医療の世界では、いかに個人が技術を向上させ、与えられた役割を果たしても、それだけではすべての課題や要望には対応できません。そのため医師は、昔から与えられたこと、決められたこと以上の仕事にも対応する奉仕の精神で人や物の不足を補ってきました。広島大学医学部では、医師の公共心、奉仕の精神を重要視し、医・歯・薬の各学部合同の授業や合同早期体験実習を通して異なる立場、職種の人が協働することを学ぶ機会を設けています。医学部生は、入学後すぐに学生中心の新入生歓迎オリエンテーションキャンプに参加しますが、このキャンプはすべて2、3年生が中心となって運営し、学部を越えた横のつながりとともに先輩達との縦のつながりが生まれる良い機会となっています。一年生の間は教養教育科目の授業が中心ですが、この時期から臨床的な実習、演習も行うことで、医学へのモチベーションが低下することのないよう配慮しています。今後は、高学年での三学部合同実習も行う予定です。
また、本学医学部は平成30年に国際基準に準拠した医学教育分野別認証評価を受審する予定です。その過程でこれまで1コマ90分であった講義時間を45分に短縮するなど改革が進行中で、カリキュラムに関しては統合型の効率良いカリキュラムに変更することを試みています。なお、臓器ごとに講義を行うことの難しい免疫や感染症、腫瘍などについてはこれまで通り横断的な講義を続ける予定です。教育改革には、教える側と学ぶ側の意識改革も重要と思います。
本学にはチューター制度があり、入学から卒業まで同じチューターと共に勉学に励みます。留年したり、勉強についていけなくなってしまったりした場合には チューターが対応する仕組みとなっています。また、専門教育科目では医学英語という授業を用意し、その中の一部にはインテンシブ・コースという期間が定められ、一定期間の授業を全て英語で行う取り組みも実施されています。交換留学制度や、4ヶ月の医学研究実習期間中の海外留学など、海外で医学を学ぶチャンスも用意しています。
卒業後も、広島県出身の学生の多くは広島に残って働いています。産婦人科、小児科など、一般的に医師が不足していると言われる診療科への入局数も順調ですが、広島県の人口から考えると、やはり医師の数は慢性的に不足しています。そこで、少しでも広島県の医療に貢献する医師を増やすための入試制度として、ふるさと枠(地域枠)を設けています。地域枠で入学した学生は、セミナーを通して一般の学生よりも地域医療について多くを学んでいますが、彼らについても各々専門医への道を提供したいと考えています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は広島県出身で、高校は広島大学附属高校で学びました。自由な校風で、高校を卒業するまで塾に通うこともなく、クラブ活動の陸上部の地区大会では入賞も果たしました。結果的に浪人することになり、広島市内の予備校に通いましたが、浪人中は一生懸命勉強し、最終的には自信を持って広島大学医学部に合格できました。広島大学は、その当時まだ学生運動が盛んで、新左翼と呼ばれる学生組織では西の拠点となっており、ヘルメットをかぶった学生が集会を開いたり、デモ行進したりすることもありました。その様な中、人との関わりや、人としての生き方について考えたり、友人と議論したりしながら過ごしました。また、分析だけでは人の心を動かすことができないということを何度も経験し、失敗を恐れないこと、人の心を臆念し、大きな願いをもつことなどを学びました。
医学部の教育は、10年、20年先を見据えたものであるべきで、私たちは学生に即戦力となってもらうことを期待していません。これは学部学生がゼミなどの形で研究室に配属される他学部と大きく異なる点だと思います。また、今、医師として、研究者として活躍している人達は、学生時代に必ずしも成績優秀であった人ばかりではありません。特に研究には、教わったことに対して疑問を持ち、考え続けられる力が大切で、臨床においても、様々なことに一生懸命取り組んだことが、後に大きな花を咲かせることが多い様に思います。私も教育に携わるものとして、将来医師として大きく成長し、活躍することができるように、学生たちを指導していきたいと思っています。
Q4.広島大学医学部を目指す受験生にメッセージをお願いいたします。
医師になるには、圧倒的な学力と、豊かな感性、そして強い公共心が必要です。さらに医師になってからは、答えではなく、良い問いを発し、その問いに対する答えに至る過程が大切です。医師は高い知力を前提に、社会的に尊敬を集め得る職業ですが、そうであるがこそ利己的であってはなりません。人は知力、社会的地位が高ければ高いほど強い公共の精神を持つべきと思います。実地医療では、分析よりも具体的な対処が必要です。高い学力と感性、社会への志を持った受験生の皆さんが、広島大学医学部へ入学してきてくださることを期待しています。
関連リンク 広島大学ホームページ
略歴
昭和59. 3 広島大学医学部卒業
昭和63. 3 広島大学大学院医学系研究科修了
昭和63.12 平成2.5米国NIH(NHLBI)研究員
平成 2. 6 平成5.2英国ロンドン大学St Thomas's Hospital研究員
平成 5. 4 平成8.3 厚生連尾道総合病院皮膚科部長
平成 8. 4 広島大学医学部皮膚科助手
平成11. 4 同 講師
平成13. 5 同 教授
平成24. 4 広島大学大学院医歯薬学総合研究科(皮膚科学)教授
平成20. 4 同医学部学部長補佐(教務委員長,カリキュラム改革担当など)
平成21. 4-27. 3 同ナノデバイス・バイオ融合研究所副所長
平成26. 4-27. 3 広島大学大学院医歯薬学保健学副研究院長
平成28. 4 広島大学医学部長
加入学会及び役職名
1.日本皮膚科学会(専門医・理事、キャリア支援委員会委員長)
2.日本アレルギー学会(指導医、理事)
3.日本皮膚アレルギー・接触皮膚炎学会(理事)
4.日本小児皮膚科学会(副会長)
5.日本研究皮膚科学会(理事)
6.日本臨床皮膚科医会
7.日本再生医療学会
8.日本褥瘡学会、など