群馬大学医学部長 石﨑泰樹先生
Q1.群馬大学の特色についてお聞かせください。
群馬大学は国立大学の医学部ということもあり、私立の医学部に比べると医師になりたいと自発的に志した学生が多いという印象です。この学生諸君の志を大切にしたいと思います。医学部が学ぶキャンパスでは、医学科の他に保健学科の学生も一緒に勉強していますし、大学病院も同じ敷地内にあります。保健学科の学生とは部活動などでの交流も盛んに行われています。これが医療安全のために不可欠な多職種連携の基盤になると思います。
群馬大学医学部の現在の特徴として、重粒子線施設と寄生虫に関する研究が挙げられると思います。群馬大学は国内唯一、世界でもドイツのハイデルベルク大学に次ぐ二番目の大学附属の重粒子線施設を有しています。この点で附属病院と連携して、重粒子線を用いての治療を行うだけでなく、場合によっては外科的手術、化学療法など、がんに対して総合的な治療を行える強みがあります。また治療後の精神的・身体的なフォローアップができるなど、多方面からケアできる医療体制が整っています。「重粒子線医工学グローバルリーダー養成プログラム」は文部科学省の博士課程教育リーディングプログラム事業に採択され、重粒子線医工学に関する世界最先端の研究が行われています。寄生虫に関する研究も盛んです。マラリアの研究をしていた先生が研究室を群馬大学に立ち上げたことがきっかけとなっています。現在では、マラリアの研究の他に、リーシュマニア症に関する世界最先端の研究が行われています。物流のグローバル化や、地球温暖化などの気候変動によって、今後日本でも寄生虫による疾患が増加することが予想されますし、日本の医療の世界貢献という観点からも寄生虫に関する研究の重要度は高まっていると思います。時代の変化に対応できる研究、世界に貢献できる研究を行っていることは、とても意義のあることだと考えています。
Q2.群馬大学医学部の教育に関する特色などお聞かせください。
教育に関しては、特に医療倫理の教育に関して力を入れています。医の倫理学という授業を設けており、そこでは教員が一方的に倫理観をレクチャーするのではなく、いろいろなケースを学生に提示して学生自身に考えさせる内容になっています。また、医療の質、医療安全を考慮して、系統立てて教育することを重要視し、今年度から「医療の質・安全学講座」という講座を立ち上げました。医学教育分野別評価への対応も進めています。学生に何を教えるかを重視した”プロセス基盤型”の教育からどんな医師を育成するのかを重視した”アウトカム基盤型”の教育への転換を図っています。医学・医療が自然科学の上に成り立ち、かつ社会の中で人を対象として行われるものであることを理解し、科学的知(Science)、倫理(Ethics)、技能(Skill)の3つの面にわたって生涯自己研鑚を続けることができる学生を育成していきたいと考えています。人工知能などが医療の分野に導入されるといったような社会の変化に柔軟に対応できる医師の養成につながると思います。
近年、少数ではありますが、大学での勉強についていけない学生がいることを危惧しており、入試の方法を変更することも検討しています。学生をフォローするために大学側としても一人の教授が各学年3、4人の学生をチューター(担任)として受け持っています。学生の相談に乗ったり、試験の出来が悪い学生の面倒を見たりしています。国家試験に関しては、群馬大学は例年、普通に勉強している学生は合格しています。通常5、6人のグループを作って学習している学生をよく目にします。グループを作って学習することが情報共有という点からも重要で、学生が自発的に集まって勉強してくれることを期待しています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は仙台市の出身です。高校は仙台第一高校に通っていました。一高は独特の校風がある歴史のある学校として地元では有名な高校で、卒業生には吉野作造や菅原文太、井上ひさしなどがいます。バンカラな校風の男子校で、とても楽しい高校生活でした。高校時代は特に部活動などには所属していませんでしたが、チェロを弾くことが趣味でした。父は仙台一高になる前の旧制仙台一中の出身なのですが、父が漢文を習った先生から私も漢文を習ったことが今でも印象に残っています。
医師になろうと志したきっかけも父でした。父も医師として働いており、当時まだ猛威を振るっていた結核の専門医として活躍していました。父の姿を間近で見て、小さな頃から医師になりたいと思っていました。子供の頃は生物に興味があり、パスツールやコッホの伝記を読んで、研究者に憧れを持っていました。高校卒業後、東京の駿台予備校での一年間の浪人生活を経て、東京大学医学部に入学しました。卒業と同時に東大の大学院に入り、神経化学の研究を始めました。大学院を修了し医学博士の学位を得てからは、東大医学部で薬理学の教授をしていた先生に誘われて、岡崎の生理学研究所に移って研究を続けました。その後、東京医科歯科大学の先生に自分の研究分野と近い先生がおり、その先生の下に移って研究を続けました。医科歯科時代にはイギリスへの留学も経験しました。ある日、論文を読んでいて、この論文を書いた先生の下で研究したいと思い、イギリスの大学に向けて手紙を書いて受け入れてもらいました。イギリスでは日本よりもはるかに速く世界最先端の研究に触れることができ、とても貴重な経験をすることができました。帰国後、神戸大学を経て、群馬大学に助教授として着任、教授に昇任して今に至ります。
Q4.群馬大学を目指す受験生にメッセージをお願いいたします。
群馬県は萩原朔太郎や土屋文明などの文人を輩出している文化的雰囲気のある県でもあり、東京に比べて誘惑も少なく、海はありませんが、温泉やスキー、山登りなど大自然を楽しむことができます。学生が勉強するには適した環境であると思います。
群馬大学医学部で学んだ学生には、病気を見るのではなく、人全体をみることのできる医師になってほしいと考えています。医師は一生勉強の職業ですし、自分で考える力が非常に重要です。卒後にどのような社会貢献ができるのか、今のうちから考えていただきたいと思います。
オープンキャンパスでは、ぜひ実際に勉強している学生に話しかけてほしいと思います。和気藹々と勉強している姿を見て、群馬大学のことを知るいい機会になればと思います。
関連リンク 群馬大学ホームページ
現職
群馬大学医学部長
群馬大学大学院医学系研究科長
学歴
昭和49 年3 月 宮城県仙台第一高等学校卒業
昭和52 年3 月 東京大学教養学部理科三類在学
昭和56 年3 月 東京大学医学部医学科卒業
昭和60 年3 月 東京大学大学院医学系研究科修了
職歴
昭和60 年4 月 岡崎国立共同研究機構生理学研究所神経化学部門特別協力研究員
昭和60 年10 月 岡崎国立共同研究機構生理学研究所神経化学部門日本学術振興会特別研究員
昭和62 年4 月 東京医科歯科大学助手歯学部附属顎口腔総合研究施設
平成3 年7 月 ロンドン大学ユニヴァシティカレッジ生物学部客員研究員(~平成6 年4 月)
平成4 年4 月 東京医科歯科大学助手歯学部
平成9 年7 月 神戸大学助教授医学部
平成13 年4 月 群馬大学助教授医学部
平成15 年4 月 群馬大学助教授大学院医学系研究科
平成16 年4 月 国立大学法人群馬大学に承継される
平成16 年7 月 群馬大学教授大学院医学系研究科
平成29 年4 月 国立大学法人群馬大学執行役員
群馬大学医学部長就任
群馬大学大学院医学系研究科長就任
学会等
日本生化学会 評議員
日本神経化学会 評議員
日本生理学会 評議員
日本神経科学学会
日本細胞生物学会
The Society for Neuroscience(米国神経科学学会)
The International Society for Neurochemistry(国際神経化学会)