岡山大学医学部長 大塚愛二先生
Q1.岡山大学 医学部の特色(特に良い点)を教えて下さい。
岡山県には江戸時代から教育に熱心な風土が根付いていたそうで、藩士の子弟を教育する藩校の他にも庶民のための手習所の機能を集約した庶民のための学校(閑谷学校)を作るなど、全国的にも珍しい取り組みが見られます。また、医療制度に関しても村々を郡にまとめ、郡医を任命して公衆衛生を改善しようとするなど、独自の制度がありました。
岡山大学医学部は、明治3年(1870)に岡山藩医学館として創設され、150年ほどの歴史があります。廃藩置県後、岡山県医学校となり、そして第三高等中学校医学部、岡山医学専門学校、岡山医科大学を経て、1949年から岡山大学医学部となりました。その間に約12,000人の卒業生を輩出し、中国・四国・近畿地方を中心に医師として活躍する先輩たちが多くいます。関連病院も多く250以上あります。また、医療行政に携わる先輩たちも数多くいます。第三高等中学校医学部時代には近畿地方から中国、四国地方まで幅広い範囲の地域医療を担っていた歴史があります。現在でも岡山大学医学部には岡山県の他、広島県や兵庫県、四国地方など様々な地域から多くの学生が岡山大学に集って共に勉強しており、地域を支える人材を育てる上でとても良い循環を今でも維持できています。
岡山大学病院は、報道でよく知られているように移植医療や小児心臓手術が有名ですが、その専門科の能力の高さと同時に、高い能力を発揮できるようにするチーム医療力の高さを物語っています。また、医療法上の臨床研究中核病院に認定され、臨床研究の中核拠点として位置づけられています。
ベッドサイドティーチングを1960年代から取り入れ、医療現場で学生を教育するというスタイルが伝統的です。これは、現在の診療参加型臨床実習につながっています。また、医学部、薬学部、歯学部の三学部が設置されており、互いに協力し合いながら教育活動や研究活動を行なっています。
Q2.岡山大学 医学部が育成したい医師像、そのための教育カリキュラムの特徴について教えて下さい。
「医療の中核を担う指導的立場の医療人育成」を教育理念に掲げ、医の倫理に徹し、科学的思考と高度な医学知識・技術を体得し、社会的信頼を得るに足る医師・医学研究者を育成します。
医学科では、先進的で系統的な教育プログラムを用意しています。入学から1年半の間は、他学部の学生と一緒に幅広い科目を学習して多様な価値観を学び、豊かな人間性と柔軟な社会性を育てます。入学直後から小グループで議論と思考を重ねて特定の問題を探求する’医学セミナー’、臨床医学のエッセンスを紹介する’臨床医学入門’、医療施設での’早期体験実習’もあわせて行います。2-3年次には、基礎医学の各科目で生命科学の先端を系統的に学び、科学的思考を身につけます。3年次には ‘医学研究インターンシップ’を行います。3か月間、学内および学外(海外含む)の研究室で医学研究の産出(知の創生)を現場で実体験するプログラムです。4年次から臨床講義が始まり、全国共用試験(CBT・OSCE)を経て、4年次1月からは臨床実習を行います。熱意ある臨床系教員の指導に加え、関連病院との連携により最先端の臨床医学を学びます。指導医と研修医などによって構成される診療チームの一員として学生が実習する診療参加型実習(クリニカル・クラークシップ)を行っています。
分野別認証評価への対応に向けてカリキュラムを改革し、座学の講義時間は90分から60分に短くなりました。講義の内容もコンパクトなものへと改善し、学生には予習・復習や教材の事前配布などを行なってアクティブラーニングに取り組んでもらっています。適宜理解度テストなども実施しながら、学生が限られた時間で必要な知識を身につけることができるような工夫を行なっています。
医療倫理に関する教育については、医師としてあるべき姿、プロフェッショナリズムを教育する講義の中で、医師として正しい倫理観について教育を行なっています。また、1年次に地元の企業へ週に一度訪問するという取り組みも行なっています。実際の社会生活を体験する中で、医師として患者とコミュニケーションをとる上で最低限必要不可欠な社会常識や一般常識を育むことを目指しています。
また、大学院においてARTプログラムという新しいプログラムを立ち上げました。これは、岡山大学病院で研修を行うと同時に大学院へ入学し、また、医学部在学中から大学院の授業を先取りで履修することで早く学位を取得することを目標にした取り組みです。優秀な学生は医学部卒業後三年半ほどで博士号をとりながら研修を終了し、次のステップへと進むことができます。意欲のある学生が少しでも早く次のステップに進むことができるような体制を整えています。
Q3.ご自身が、医師を目指されたきっかけや受験勉強でのエピソード、人生のターニングポイントなどについて、お聞かせ下さい。
とくにこれというきっかけがあったわけではありませんが、中学生時代から漠然とそういう思いがあったように思います。中学2年だったか、何の授業であったかは忘れましたが、自分の将来を問われて、クラスの中で「医師となって無医村に行って働く」というようなことをつい言ってしまった記憶があります。何かのテレビ番組でそういう医療過疎地区の特集をしていたのかもしれません。また、北壮夫の「どくとるマンボウ航海記」を読んで、船医はおもしろそうだと思ったこともありました。これらの思いは、実現しませんでした。
受験勉強は、計画を立てては途中で計画倒れになることが多かったと思います。ただ、3年の12月に進路指導の先生が、「だまされたと思って一日13時間勉強してみろ。必ず受かるから。」という言葉を鵜呑みにして、本気で1月から2か月間、毎日13時間勉強しました。やってみると何とかできて、合格しました。
大学生活でそれほど勉強したわけではありませんでしたが、同級生と一緒に「LangmanのMedical Embryology」という発生学の本を1年半ほどかけて読んだのが記憶に残っています。この書物を通じ、人体をはじめとする生体の構造のダイナミズムを知り、基礎的な学問と臨床医学との関連に興味がわきました。このことは、私が今の専門分野(解剖学)に進んだことに何らかの影響を与えているかもしれません。また、文法的に平易な英語で書かれていて、英語で学術情報を得るということに対してハードルが下がりました。医学部に入ったなら、何か一冊でいいので英語の書物で定評のある教科書を読むことをお勧めします。
Q4.最後に、岡山大学 医学部を目指す受験生に求める心構え、メッセージをお願い致します。
医学部を目指して勉強されていると思いますが、「目指す」ということの意味を一度考えてください。言い換えると、医学部に入ることは、自分にとって「目的」なのか「目標」なのかということです。「目標」は、視界にあるもので実現可能性の高いものに設定するでしょう。医学部に入ることを「目標」にするのは良いのですが、「目的」にしてしまうと、それを達成したとたんに生きる目的を見失うことがあります。また、難関と言われるA大学の医学部に入ることを「目的」にしていて、たまたまセンター試験の出来具合で別の大学を受験して入ってしまい、「自分の居場所はここじゃない」と心の奥底でつぶやくもう一人の自分にせっかくの大学生活が台無しになることもあります。医学部を目指す皆さんには、卒業して10年、20年、30年後の自分をイメージして、より高い「志」を持って、今は視界の内にないような「目的」に向かってください。その上で、岡山大学医学部を選んでいただければ、ありがたいと思います。
岡山大学医学部は、次代を担うリーダーとして活躍できる医療人を育成します。私たちと一緒に将来働きませんか。
関連リンク 岡山大学ホームページ
現在
岡山大学大学院医歯薬学総合研究科教授(人体構成学分野)
岡山大学医学部長
略歴
昭和49年3月 岡山県立岡山朝日高等学校 卒業
昭和55年3月 岡山大学医学部医学科 卒業
昭和59年3月 岡山大学大学院医学研究科生理系解剖学専攻 修了
昭和59年4月 岡山大学医学部助手(解剖学第二講座)
昭和63年9月 カリフォルニア大学サンフランシスコ校医学部
平成2年11月 岡山大学医学部講師(解剖学第二講座)
平成7年12月 岡山大学医学部助教授(解剖学第二講座)
平成16年4月 岡山大学大学院医歯学総合研究科教授(人体構成学分野)
平成18年4月 岡山大学附属図書館鹿田分館長(併任)
平成21年7月 岡山大学国際センター長(併任)
平成23年4月 岡山大学医学部医学科長(併任)
平成27年4月 岡山大学医学部長(併任)
資格等
医師免許(昭和55年5月)
医学博士(昭和59年3月)
所属学会
日本解剖学会:理事,Anatomical Science International 編集委員長
日本顕微鏡学会:評議員