山口大学医学部長 谷澤幸生先生
Q1.山口大学医学部の特徴についてお聞かせください。
山口大学医学部の歴史は昭和19年に創設された山口県立医学専門学校に始まります。その後、昭和24年に設置された山口県立医科大学を経て、昭和39年に国立移管により山口大学医学部となりました。70年以上の歴史があり、本学医学部で学んだ約5600人の卒業生は、日本全国、海外において活躍しています。
医学部は宇部市の小串キャンパスにあります。医学科生は1年次に他の学部の学生と共に山口市の吉田キャンパスで共通教育の授業を受けた後、宇部市の小串キャンパスで5年間、医学の専門科目を学びます。全国各地から学生が集まっており、以前は山口県出身者が1割ほどしか在籍していなかった時期もありましたが、卒後臨床研修制度の変更に伴い、山口県の地域医療を担う人材を育成するため推薦入試に地域枠を設けることになり、現在では、3割から4割が山口県出身者です。
山口県には大都市がなく、瀬戸内海沿いに中規模の都市が点在しているのが特徴です。各都市には基幹病院があり、そこでは山口大学医学部の卒業生が多く活躍し、学生の実習や研修などの際にも協力してもらっています。指導する医師からすれば、実習の学生たちが自分の後輩にあたることもあって、とても丁寧に指導していただいています。
本学医学部の学生はクラブ活動にも非常に熱心に取り組むことが特徴で、中には6年生になっても部活動に参加する学生もいるほどです。特に今年は西日本医科学生総合体育大会の主管校であることから、例年よりも熱心に取り組んでいます。勉強をおろそかにしない範囲で、学生時代にしかできない経験をたくさん積んでほしいと考えています。
学生は心理的、精神的な問題を抱えてしまうこともあるため、学生委員の教員を中心に学習面や生活面などさまざまな相談に応じる体制を整備しています。4年次にCBT※1を受験する頃からは教員による個別の面談や指導をより手厚く行っています。全ての学生により丁寧に対応するために、今年の秋から担任制を導入する予定です。
また、特色ある講座の一つに、平成29年4月に新設したシステムバイオインフォマティクス講座があります。AI(人工知能)などの最先端技術を基礎医学研究や医療に応用することを目指しています。今後、AIがさらに発展していく中で、人間が発見することのできないバイオマーカーをAIの利用で発見することができたり、今までにない新しい解析方法や病理・画像診断方法がAIを応用することで可能になることが考えられます。電子カルテなどによって蓄積されるビッグデータを用いた網羅的解析などの研究が進むことを期待しています。
※1:CBT : 臨床実習を行う前までに修得すべき必要不可欠な医学的知識を理解しているかどうかを総合的に評価する試験。
Q2.山口大学医学部の教育に関する特徴についてお聞かせください。
国際基準に基づく医学教育分野別評価に対応し、平成27年4月からの新カリキュラムでは、講義時間を1時限45分に変更しました。以前は90分で講義を行っていましたが、時間を半分にして、間に休憩時間を設けることで、学生の集中力を維持することが主な狙いです。講義時間は変更しましたが、講義の内容にはあまり手を加えることなく対応しています。
カリキュラムの大きな特徴はコース・ユニット制を導入している点にあります。臓器・系統別に編成した独自のコース・ユニット制カリキュラムに基づき、多方面から医学を学び、幅広い研究視野と豊かな人間性を培いながら、自発的学習能力を育成します。1つのユニットの授業が終了した時点でテストを行います。1~2週間に一度くらいの間隔でテストを行うようにしており、学生の知識の定着を図っています。学生からはいたずらにテスト範囲が広くなることがなく、勉強しやすいとおおむね好評ですが、細かく分野を分けすぎている、テストの回数が多すぎるなどの意見もあります。学生が勉強しやすい制度は維持しながらも、学生が体系的な知識を身につけることができるように、工夫した教育を行なっていきたいと考えています。
学生が研究に興味を持ってもらえるよう、3年次に5ヶ月間余り、研究室で基礎研究などに従事する機会「自己開発コース」を設けています。この期間は講義室での授業は行わないので、学外の研究機関や他大学での研究も可能です。政府系の奨学金などを得て、海外留学する学生も多数います。本学医学部の発展や後進の育成のためにも、本学出身の研究者の養成が非常に重要です。この期間を通して、研究者を目指す学生が少しでも増えてくれればと願っています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は和歌山県出身です。大阪府と和歌山県の県境の地域で生まれ育ちました。高校も、地元の橋本高校という公立高に進学しました。当時は塾も少なく、予備校はほとんど無い時代でしたので、受験勉強は自学自習が中心でした。実家は医師の家系であったわけでもなく、高校1年生の時は弁護士になりたいと思っていましたが、高校2年生の頃に医学部を目指すことに決めました。高校生の頃はさまざまなことに興味があり、原子力工学にも興味がありましたが、人を相手にした職業に就きたいという思いがあり、医学部への進学を決めました。
山口大学医学部入学後、当時着任したばかりの若手の生化学の教授に大変お世話になり、生化学に興味を持ちました。夏休み等には研究室に出入りするようになり、当時盛んだった遺伝子の研究を自分でもやってみたいと思うようになりました。医学部を卒業して第三内科に入局した後、大学院では生化学教室で研究を行いました。研究結果が出ず辛い思いをしたこともありますが、楽しく実験を行っていました。当時、第三内科には同級生が11人も入局したため、非常に仕事がしやすい雰囲気でした。自由度の高い環境の中で研究を行えたことは、研究の基本を学ぶ上で非常に大きかったと思います。
Q4.山口大学医学部を目指す受験生の皆さんにメッセージをお願いします。
医師になる上で高い倫理観を持っていることが必要であることは言うまでもありません。「人が好きである」ことが基本です。また、わからない問題や、治らない病気を諦めるのではなく、興味を持ってさまざまなアプローチで課題の解決に当たる科学者としての側面も医師には必要です。さまざまなことに興味を持つ好奇心と、解決法を模索する探究心が医師としても非常に大切だと思います。
関連リンク 山口大学ホームページ
現職
山口大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御内科学講座 教授
山口大学医学部附属病院第3内科 科長
山口大学大学院医学系研究科長、山口大学医学部長
略歴
昭和58年3月 山口大学医学部医学科卒業
昭和62年3月 山口大学大学院医学研究科(内科系内科学専攻)修了(医学博士)
昭和62年4月 労働福祉事業団愛媛労災病院 内科
平成元年4月 山口大学医学部附属病院(第3内科)助手
平成2年7月 ワシントン大学(米国ミズーリ州,セントルイス市)
内科 内分泌代謝糖尿病部門 (M. Alan Permutt教授) 研究員
平成7年4月 山口大学医学部附属病院(第3内科)助手
平成9年4月 山口大学医学部附属病院(第3内科)講師
平成14年5月 山口大学大学院医学研究科応用医工学系独立専攻
生体シグナル解析医学講座分子病態解析学(旧内科学第3講座)教授
山口大学医学部附属病院 第3内科 科長(併任)
平成18年4月 山口大学大学院医学系研究科応用医工学系専攻
生体シグナル解析医学領域 病態制御内科学分野 教授
(組織替えによる名称変更)
平成28年4月 山口大学大学院医学系研究科医学専攻病態制御内科学講座 教授
(組織替えによる名称変更)
山口大学大学院医学系研究科長
山口大学医学部長
現在に至る
所属学会等
日本内科学会 評議員、中国支部代表
日本糖尿病学会 常務理事,学術評議員
Asian Association for the Study of Diabetes (AASD) Executive board member
日本体質医学会 理事
日本内分泌学会 代議員
他