東海大学医学部長 坂部貢先生
Q1.東海大学医学部医学科の特徴についてお聞かせください。
東海大学は日本有数の総合大学であることから、単科医科大学や医療系総合大学とは異なった特色があります。医学部医学科に入学する一年生は、湘南キャンパスにおいてリベラルアーツ科目などを学ぶ際に、オリンピックに出場するような選手と同じ環境で勉強することができます。医学以外の学問やスポーツを専攻する多様な学生とコミュニケーションをとることで、学生にも良い影響があると思います。
研究分野においても、総合大学の利点を生かした学際的な研究ができます。AIなどの最先端研究においても、工学部、情報通信学部の専門家と共同で研究を行うことができると期待しています。このような医工連携と呼ばれる取り組み以外にも、農学部との農医連携や体育学部とのスポーツ医学、医体連携なども進めたいと考えています。特にスポーツ医学においては、トップアスリートの研究を基にした知見は一般の方々にも応用されるはずです。そのような興味を学生時代から持たせるためにも、医学科の学生が他の学部の学生と交流を深めることが重要だと考えています。
医学科の学生にも多様性を重視しています。東海大学医学部医学科では、一般編入学という形で日本の私立医学部で最大規模の15人の入学者を受け入れています。これは、医学部にカレッジ卒業後に入学し、学生が高いモチベーションで勉強しているアメリカの医学教育制度にならって導入したものです。医学は社会や人間を相手に行う学問である以上、いろいろな背景を持った学生が入学する方が良いと考えます。学力に差はあっても、多様な学生が入学することで得られるものの方が多いと考え、一般入試や一般編入学以外にも、付属高校からの入学者を受け入れています。実習などでは入試形態の異なった学生が同じグループで勉強できるように配慮し、三者三様の長所を発揮して勉強してくれることに期待しています。いろいろな背景を持った学生が半年間のグループ学習を通して、医学の知識を身につけるとともに、人間関係を育んでくれればと思っています。
Q2.東海大学医学部医学科の教育に関して、特徴をお聞かせください。
国際認証に対応した新カリキュラムを2016年度から導入しました。新カリキュラムの導入によって、一年次から医学の専門教育を行うことになりましたが、実は東海大学では楔形の教育を柱に、医学部開設時に一年次から解剖実習などを行なっていました。したがって、新カリキュラムを導入しても、本学でのこれまでの医学教育を考えればそれほど大きな違和感はないのではないかと考えています。実習時間が増えることに伴った基礎学習の不足分は、一年次から専門科目の勉強を行うことでカバーしたいと考えています。しかし、その分リベラルアーツ科目の授業が減少したことをどのように賄うのかは今後の課題です。人間力を養うことは医師の育成にとって大切ですが、学習で補える範囲は限られています。リベラルアーツ科目の時間の減少分は、実習を通して社会性や医師として必要な倫理観を養うことができればと思います。
東海大学には医師の子弟が入学してくる場合もあり、医師育成においての大きな目的は優れた臨床医の育成にありますが、研究医の育成にも力を入れたいと考えています。研究医育成のための少人数プログラムを開設することも検討しています。また、臨床医になっても、リサーチマインドを持って取り組むことが非常に重要になると考えます。これは、専門医制度が重要視される昨今、ますます重要になります。専門医の資格を持つことが当たり前になれば、学位を取得することが医師としてのキャリアプランを考える上で重要になるのではないでしょうか。学位の重要性が見直されることを考え、臨床と研究を高いレベルで両立できる医師の育成が必要であると認識しています。
東海大学では学生支援のシステムも充実しています。医学部では十人ほどの学生を一人の教員が担当する担任制も設けています。一人一人の学生をきめ細やかに指導する開設時からの伝統は今も根付いています。学生支援の一環としては、学生の留学支援も積極的に行なっています。特にタイムリーな取り組みとしては、極東地方の大学との交換留学を推進しています。タイのチュラロンコン大学や、ロシアの極東連邦大学などの大学との協力体制を築くことを進めています。留学体制の整備には、医学以外の分野の交流も重要となります。ここでも、総合大学としての長所を発揮できればと思います。
Q3.先生ご自身のことについてもお聞かせください。
私は京都の出身で、東山高校に通っていました。小さい頃から自然科学には興味があり、生物には魅力を感じていました。最終的には医師であった父にも相談して、医学部に進学しました。受験の際には色々と大学を調べる中で、新しく設立された東海大学に魅力を感じ、進学しました。受験勉強では赤本を中心に勉強しましたが、東海大学医学部は新しい学部であったこともあり、あまり過去問もありませんでしたが、理科を中心に勉強しました。当時京都には駿台予備校がありましたので、浪人生に混じって勉強する中で、医学部に合格することができました。
東海大学医学部に進学後は学生時代から研究室に出入りしてマウスを用いた実験を行なっていました。その後、解剖の道に進みました。解剖と聞くと基礎的な学問のように聞こえますが、発生学などとも関連があり、環境医学の研究にも結びつく応用的な分野も含まれます。研究の道へと進んだのは父の影響が大きかったと思います。父は外科の臨床医でしたが、日曜日には研究も行なっており、小さかった私は家で留守番するわけにもいかず、父について研究室を訪れ、父の研究を見ていました。実験室での父の姿を見て育ったことが、研究者になる動機となったのだと思います。
さらなる研究のため、医学部卒業後はボストンのタフツ大学に留学しました。タフツ大学では環境ホルモンなどの研究室に所属して研究しました。留学は大変有意義なもので、学者のネットワークが広く、研究者の待遇も大きく異なりました。
学生には、常に知的好奇心を持ち、様々なことに興味を持ち続けて欲しいと思っています。医学は最終的には人を診る学問です。医学部の教育の理念を通して、学生には是非、医学は人の幸せを目的としているのだということを考えて欲しいと思います。特に、解剖はご遺体と接する場です。学生に死生観について考えさせる非常に良い機会であると捉えています。解剖実習中は学生に対して様々なことを考えさせる中で医師としての心構えについても教育していきたいと思います。
Q4.東海大学医学部を目指す受験生にメッセージをお願いいたします。
成績が良いから医学部へ行くという発想ではなく、なぜいま医師になりたいかということをよく考えて欲しいと思います。強い動機を持っていることは医師になる上で非常に大切です。多くの受験生、医学部の学生は医師になってからのことは考えますが、医師になるまでのことはなかなか考えません。生半可な気持ちでは医師という職業を続けていくことは難しいと思います。医の心を育てるには医学部での教育と同様にそれまでの家庭環境などが非常に大切になります。医学部ではなく東海大学を選んでくれた受験生に是非入学してほしいと思います。
関連リンク 東海大学医学部ホームページ
東海大学医学部医学科基礎医学系生体構造機能学 教授・医学部長
1982年 東海大学医学部医学科 卒業
1988年 東海大学医学部 専任講師
1998年~1990年 米国タフツ大学医学部 Research Assistant Professor
1990年~1991年 米国ハーネマン医科大学 Research Fellow
1994年 東海大学医学部 助教授
2000年~2009年 北里研究所病院臨床環境医学センター長
2001年~2002年 米国ダラス環境医学センター Clinical Research Fellow
2002年 東京医科歯科大学大学院 客員教授
2004年~2009年 北里大学薬学部公衆衛生学 教授
2009年~ 東海大学医学部生体構造機能学領域 教授
同 大学院医学研究科・先端医科学専攻 教授
2013年~2016年 同 副医学部長・教育計画部長
2016年~ 同 医学部長