香川大学医学部長 上田夏生先生
Q1.香川大学医学部の特徴についてお聞かせください。
香川大学は6学部(学部学生約5,700人)を擁する総合大学で、医学部はメインキャンパスである幸町キャンパスから離れた三木町医学部キャンパスに位置しています。医学部の学生も一年次は主として幸町キャンパスで全学共通科目(教養教育)を学びますが、水曜日と金曜日は医学部キャンパスに来て医学専門教育を受けます。新入生の中には街の中心部で生活に便利な幸町キャンパスの近くに下宿先を探す学生もいれば、二年次からのことを考えて医学部キャンパスの近くに住む学生もいます。キャンパス間は13キロほど離れており、大学が無料のキャンパス間シャトルバスを運行しています。
国際認証への対応としては、臨床実習の期間を延長し、診療参加型実習を増加させました。授業時間についても、低学年の間は他の学部に合わせて90分授業を行なっていますが、三年次後期からは60分に短縮し、より効率的な学修と自主的学習の促進を行うなどの教育改革を行っています。
入試は推薦、前期、後期、学士編入学と多様な形態で行なっており、香川県からの奨学金の貸与を前提とした地域枠もあります。後期入試で比較的多い25名の学生を選抜していることに特徴があると思います。近隣の国立大学である京都大学や岡山大学、徳島大学で後期入試がなくなったことも影響しているのか、高倍率になる傾向があります。また、特別な制度を設けているわけではありませんが、毎年一人か二人は帰国子女の学生も入学しています。彼らは思考をする際に英語の方が使いやすいらしく、私は生化学の講義を担当していますが、試験の論述問題などで英語で解答してくる学生もいます。もちろん問題ありません。このことに限らず、学力があり、人物的に優れた学生であれば、性別、年齢を問わず誰でも入学できるのが、開学以来の香川大学医学部の伝統だと思います。
医学科のことではありませんが、平成30年4月から、全国の医学部で初めてとなる「臨床心理学科」が香川大学医学部に誕生します。心理援助職を目指す臨床心理学科の学生が、医学科の学生と一緒に受ける授業も予定しています。
Q2.香川大学医学部の教育に関する特徴についてお聞かせください。
香川大学医学部の特徴として、活発な国際交流が挙げられると思います。特に、ブルネイとの交流に関しては全国的に見ても珍しいものではないかと思います。ブルネイは東南アジアにある人口40万人ほどの国で、国土面積は三重県とほぼ同じ広さです。香川大学医学部では、ブルネイダルサラム大学と学生の相互訪問などを通じて国際交流を行なっています。ブルネイでは英語で教育が行われており、同大学医学部に短期留学した学生にとっては英語で医学や医療について学ぶ非常に良い機会となっています。特に、チュートリアル中心の少人数教育やディスカッションを通じての英語力のアップが魅力です。また、ブルネイは経済的にも豊かな国で治安も良く、イスラム圏であることから文化的にも得るものが非常に多いと思います。モスクやイスラム教に則った生活、イスラム圏独特の習慣や衣装などに触れて、一種のカルチャーショックを受けながら、見聞を広める機会になればと考えています。先日、夏休みにブルネイやタイ、中国に留学していた学生の帰国報告会がありましたが、どの学生も流暢な英語でいきいきとプレゼンテーションを行なっていました。低学年のうちに海外に留学し、海外で医学を学ぶ学生と一緒に勉強する機会を持つことで、今後の彼らの成長のモチベーションになっているように思います。また、高学年では、臨床実習の期間を利用してイギリスに留学し、ロンドン大学やグラスゴー大学、ニューカッスル大学の付属病院で臨床実習を行うプログラムもあります。6年間で複数回留学する学生がいる一方で、留学をしないでも交換留学で来日した外国人学生と交流することも可能になっています。受験生の中には留学プログラムに魅力を感じて香川大学医学部に入学してくれる学生もいます。今後はさらにこのようなプログラムを内外に発信する取り組みが重要であると考えています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は大阪市の生まれで、大阪府立天王寺高校の出身です。父が開業医ということもあり、小さい頃から医師という職業は常に自分の中にイメージがありましたが、医学部に進学すると決めたのは高校生になってからでした。両親は私が医学部に進学することを望んでいたのではないかと思いますが、直接勧められたことはなかったと思います。高校時代はワンダーフォーゲル部に所属していました。月に一度日帰りで近くの山に登ったり、夏休みに3泊4日で合宿をしたりしていました。純粋に体育会系のクラブではなく、目的地の地理や歴史についても学び、途中で寺社仏閣なども周りました。大阪の高校であったこともあり、担任の先生は、理系を選択していた私に京都大学工学部への進学を勧めようとしていたようです。医学部への進学を決めた後は、国立大学志望で勉強し、大阪から比較的近い徳島は母の出身地でもありましたので、徳島大学医学部を目指すことに決めました。私の頃は一期校、二期校を選んで受験する制度でしたので、一期校は徳島大学、二期校は山口大学に出願しました。高校の授業レベルが高かったので、塾や通信教育に頼らずとも授業を中心に勉強していました。
徳島大学医学部は酵素研究で有名な研究施設もあり、当時から生化学の研究がとても盛んでした。全国から生化学の研究者が集まり、有名な研究室も多かったこともあり、研究志望の私が生化学の道に進むことも自然なことでした。大学院で博士号を取得したのち、同じ研究室に助手として採用されました。その後、休職制度を利用してアメリカのテキサス大学に二年余り留学しました。実際に留学してみると、実験技術や研究手法などに関して決して日本が見劣りしていることはありませんでしたが、アメリカには世界中から優秀な人材が集まってきており、そのスケールや資金力の大きさ、また外国人を受け入れる懐の深さがアメリカの魅力であると思いました。研究の関係でヨーロッパに行くことも多いですが、ヨーロッパにはその歴史や文化、伝統などに大きな魅力を感じました。学生には精神を揺さぶられるような感動を経験してもらうためにも、ぜひ一度海外に出て、一定期間そこで生活してみることが大切だと思います。
Q4.香川大学医学部を目指す受験生にメッセージをお願いします。
医学部に入学する段階で、必ずしも医師になって活躍しようというすごく強い志がなくても、漠然とでも世の中の役に立ちたいという思いを持っていれば大丈夫だと思います。そういう思いがあれば、学んだ専門的な知識や技術を他人のために生かそうとするはずです。そうは言っても、やはり自分自身が医師や医学研究者になったときのイメージを持って、医学部に来てほしいです。そうでないと入学後、二年次あたりから勉強が大変になり、壁に当たった時に挫折してしまうかもしれません。医学部に受かること自体が目的で入学すると後悔することがあるかもしれません。一定の学力とモチベーションを持って入学し、楽しく充実した学生生活を送ってほしいと思います。
関連リンク 香川大学ホームページ
学歴
昭和52年 3月 大阪府立天王寺高等学校普通科卒業
昭和58年 3月 徳島大学医学部医学科卒業
昭和62年 3月 徳島大学大学院医学研究科博士課程(生理系専攻)修了
職歴
昭和62年 4月 徳島大学医学部附属病院医員
昭和62年 7月 徳島大学医学部助手(生化学講座)
昭和63年 5月 徳島大学医学部講師(生化学講座)
平成 3年 4月 テキサス大学サウスウエスタン医学センターダラス校研究員(薬理学講座)(~平成5年8月)
平成 6年 12月 徳島大学医学部助教授(生化学講座)
平成13年 1月 香川医科大学医学部教授(生化学講座)
平成15年 10月 香川大学医学部教授(生体分子医学講座生化学)
(現在に至る)
平成29年 10月 香川大学医学部長(併任)(現在に至る)
学位
昭和62年3月 医学博士(徳島大学)
免許
昭和58年5月 医師免許