鳥取大学医学部長 廣岡保明先生
Q1.鳥取大学医学部の特徴についてお聞かせください。
鳥取大学医学部は米子医学専門学校を起源に持ち、2020年で75周年となります。国立大学の中でも伝統のある大学です。鳥取大学医学部の最大の特徴は、医学部の中に生命科学科があることであると思います。生命科学科は研究面での連携などの大きな役割を果たしてくれています。生命科学科が世界で初めて開発した人工染色体の技術を用いた創薬、がんウイルス療法、さらには再生医療などの研究を、大学が設置した染色体工学センターや、県が設置したとっとりバイオフロンティアなどと連携して行っています。このような先端的な研究施設を持っていることも大きな強みの一つです。研究で得た知見や技術を実用化することも目指して、県や国、企業などとの共同開発や協力関係の構築なども積極的に行っています。
県内の企業との共同研究や共同開発も盛んです。鳥取大学医学部発のベンチャー企業を立ち上げて研究内容を実用化すると共に、県内の企業と医学部の教員が協力して医療機器の開発などに取り組んでいます。機器開発の研究を通して地方経済に雇用を生み出し、地域創生を図る狙いもあります。特に、シミュレーターロボットの開発が進んでおり、医療ロボットの開発においては世界に先駆けた開発研究が行われています。地方の国立大学ということもあって、地域の企業との協力関係の構築を重視しています。学内での連携も推し進めており、工学部や農学部との医工農連携や共同での創薬研究なども大学として戦略的に行っています。今後は、知財関係の専門家が不足している現状を踏まえ、また将来的にも需要が見込まれることもあって、大学院で専門家を育成しようという取り組みも進んでいます。
研究に大きな特徴がありますが、鳥取大学医学部の最も大きな役割は地域医療を将来にわたって守っていくことです。医師、看護師、臨床検査技師を養成していますが、卒業後に鳥取県に残ってくれないことが大きな課題となっています。地域医療の崩壊を防ぐためにも、地域枠の中に地元枠を作ることを厚労省が検討している現状を踏まえ、それの先取りを行うなど、入試制度のさらなる改革を始めています。
Q2.鳥取大学医学部の教育に関する特徴についてお聞かせください。
教育に関しても、生命科学科の存在は医学部全体にとって大きな強みになっています。研究に優れた生命科学科の先生が医学科の学生を指導したり、医学科や保健学科の先生が生命科学科の学生を指導したりと、人材交流が盛んに行われているほか、学生同士は部活動などを通して積極的に交流しています。
国際認証への対応も行っています。医学科の新しいコアカリキュラムは来年の一年生から実施されることになっています。新しいカリキュラムにおいては、これまで以上にアウトカムベースの教育を行っていく方針です。つまり、卒業時に身につけているべき能力を定め、それを達成するために教育を行っていきます。現在でも、予習、復習時にもアクティブラーニングに積極的に取り組んでもらうことで実習時に効率よく学習する取り組みを行っています。これまで以上に学生主体の能動的な学習方式へと改革を図ることで、新しいPBL、TBL、OSCE等に対応した教育を充実させていきます。
医療に関わる人を教育する際に一番大切なことは患者さん相手にいたわる気持ちを育て、人の気持ちが理解できる人間へと成長させることです。知識や技術は患者さんを助ける上でもちろん必要ですが、まずは善良な市民、良き社会人として道徳的なこともしっかりと守ることのできる倫理観を持った人になってほしいと考えています。一人前の社会人となった上で、専門的なことを学習してほしいと思います。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は兵庫県伊丹市の出身です。医師を志したきっかけは、小学生の時、扁桃腺が化膿して敗血症という重い病気にかかり、生死の淵を彷徨った経験から医師になりたいと思ったことでした。中学、高校は六甲中学校・高等学校に通いました。六甲はカトリックの男子校で、厳しい校風が伝統です。私はその中で弓道部に所属しながら受験勉強にはげみ、現役では大阪大学の基礎工学部に進学しましたが、医学の道を諦めきれず、もう一度受験勉強をして、鳥取大学医学部に進学しました。
鳥取大学医学部入学後は探検部にも所属し、大学二年時には海外を放浪する旅に出ました。西ヨーロッパをヒッチハイクして回ったのち、北アフリカへ渡り、その後は南米を放浪するとともに、アマゾンの奥地で土着の人達が暮らす部落に入ることができ、そこで彼らが狩りをして捕ってきたアルマジロ、ワニ、猿などを分けてもらって食べることができました。また、ブラジルでカーニバルを見ることもできました。一年留年することがきっかけでの旅でしたが、世界を放浪する中で、人々の生活に触れ、人生は楽しむためにあるのだと実感することができたのは非常に大きな経験でした。その上で、自分は医師としてこのように普段の生活を送っている人を助けたいというモチベーションも得ることができました。今となっては大学時代の非常に良い思い出の一つです。
卒業後は消化器外科に進みましたが、その理由は全身のケアができるからというのが大きいと思います。多くの患者さんを見ることができるジェネラルな医師になりたいと思っていました。入局後は、他の外科医とは異なった分野でも社会に貢献したいと考え、消化器細胞診の研究も始めました。その当時は、実家のある関西に戻るか、鳥取に残るか非常に迷っていましたが、消化器外科と細胞診の両方を研究できる研究室がちょうど鳥取大学にあったことをきっかけに鳥取に残ることにしました。
臨床においては肝臓外科と乳腺外科が専門です。一見、離れた臓器であまり関連のない分野のように思えますが、細胞診を研究している私に適した分野であると先先代の教授に勧められたことがきっかけです。その後は、鳥取大学で生体肝移植を行う、という目標を自分の中で掲げ、それに向かって努力しました。当時は移植外科が大きな発展を遂げていた時代でしたので、その研修、技術の習得のためにピッツバーグ大学に留学しました。世界で最初に肝臓移植を成功させた施設で研修をすることができたのは大変恵まれた経験であったと思います。
その後岡山大学や京都大学で肝臓移植の研修をさせていただき、鳥取大学第一例目の生体肝移植を行うことができました。その後、ずっと鳥取大学を拠点に研究や臨床、教育を行っています。今となっては、関西に戻らず、鳥取に残って良かったと思っています。
Q4.鳥取大学医学部を目指す受験生にメッセージをお願いします。
医師として大切な素養の一つは、他人を認めることだと思います。認めることができれば、他人をいたわる気持ちが芽生え、患者さんのためを思った医療を行うことができると思います。高校生のうちからこのような気持ちを持つことは難しいかもしれませんが、是非そういった勉強とは違うモチベーションもしっかり持っている人に入学してきてほしいと思っています。
また、鳥取大学医学部としては、やはり山陰地方の地域医療を守りたいという気持ちをしっかり持っている人に入学してほしいと思っています。鳥取大学医学部は研究のほか、臨床にも優れた大学であり、ダヴィンチなどの最先端医療機器の研修施設なども充実しています。鳥取県のみならず山陰の医療のために貢献してくれる人材を求めています。
関連リンク 鳥取大学ホームページ
現職
鳥取大学医学部保健学科 病態検査学講座 教授
鳥取大学医学部長
略歴
昭和58年3月 鳥取大学医学部卒業
昭和58年4月~ 鳥取大学医学部第一外科にて、肝臓外科、乳腺外科担当
平成8年8月 米国・ピッツバーグ大学移植外科で肝臓・膵臓・腎移植研修
平成15年3月 京都大学移植外科で生体肝移植の研修
平成17年2月 生体肝移植手術執刀(鳥取県第1例目)
平成19年4月~現在 鳥取大学 医学部 保健学科 病態検査学講座 教授
平成21年4月~29年3月 鳥取大学 医学部 保健学科長および副学部長(併任)
平成24年4月~29年3月 鳥取大学 医学部 附属病院医療スタッフ研修センター長(併任)
平成29年4月~現在 鳥取大学 医学部長(併任)
学会活動
外科学会(専門医)
消化器外科学会(専門医)
細胞学会(専門医)
臨床外科学会
乳癌学会(専門医)
肝胆膵外科学会
超音波医学会
現在の専門領域
超音波診断(エコー)
消化器細胞診
乳がん検診