滋賀医科大学学長 塩田浩平先生
Q1.滋賀医科大学 医学部の特色(特に良い点)を教えて下さい。
滋賀医科大学は1974 年に開学しました。滋賀県内唯一の医学部であり、「地域に支えられ、地域に貢献し、世界に羽ばたく大学」として、全人的医療・看護を行う優れた医療人の育成、特色ある医学・看護学研究、質の高い先進医療を実践しています。本学の医学科・看護学科の卒業生が5000名を超えましたが、その三分の一が滋賀県内で医療に従事しています。県内の基幹病院で、医療スタッフの多数を滋賀医科大学の卒業生が占めるところが多くなっています。滋賀医科大学が滋賀県の医療を支えていると言ってよいと思います。
本学では、地域基盤型教育を行っています。新入生の時から地域医療の現場を訪問したり、臨床実習では本学の教育研究拠点の活動拠点である国立病院機構東近江総合医療センターや大津市にある地域医療機能推進機構(JCHO)滋賀病院で学生が2週間ずつ実習し、総合的な地域医療、都市近郊型の地域医療を学習します。入学時のガイダンスでは基礎学(一般教養)の先生が滋賀県の歴史や魅力を講義し、学生に滋賀県に対する理解と関心を高めてもらいます。本学には「里親制度」というユニークな制度があります。地域で医療を行っている本学卒業生に「里親」、地域住民のボランティアの方々に「プチ里親」となっていただき、学生が「里親」「プチ里親」の皆さんと交流することによって、地域と住民の医療ニーズに関する理解を深め、地域医療へのモチベーションを発展させるものです。これは文部科学省のGP事業としてスタートしましたが、現在は「NPO法人滋賀医療人育成協力機構」の協力を得て、大学独自のプログラムとして実施しています。将来、地域医療を志す学生には、県の奨学金制度も用意されています。
一方、医学研究を目指す学生のために「研究医養成コース」を設けています。医学研究に関心を持つ学部学生がこのコースに登録し、課外に研究室で研究を行い、希望すれば早期に大学院に進学して博士号を取得できる制度です。学生時代に国内学会、国際学会で研究を発表する研究医コースの学生も少なくありません。
滋賀医科大学は、地域医療と高度先進医療に力を入れると共に、特色ある重点研究を推進しています。それらは、アルツハイマー病を中心とする神経難病研究、サルを用いた医学研究、生活習慣病を中心とした疫学研究、がん重点研究、などです。優れた研究成果を発信することによって、滋賀医科大学の研究活動を世界にアピールしていきたいと努力しています。
Q2.滋賀医科大学医学部の教育に関する特徴をお聞かせください。
滋賀医科大学医学科では、医学教育の国際基準に対応し、学生が卒業までに到達すべきアウトカムを達成するため、「教育目標」を定めて医学教育を行っています。教育目標には、(1)グローバルスタンダードの臨床能力を養うこと、(2)医学・医療の進歩に対応し、さらに貢献できる能力を養うこと、を掲げ、教育のアウトカムとして7つの大項目と48の到達目標を設定しています。カリキュラムは「医学教育モデル・コア・カリキュラム」を基本とし、最新の生命科学と医学の進歩を取り入れ、その上に幅広い教養と倫理観を身につけることを重視して構成しています。講義は系別統合講義として基礎医学と臨床医学を組み合せ、総合的な知識と実践能力を習得させるとともに、少人数能動学習により自らが課題を探求し問題を解決していく能力と、グループ実習や討論を通じてコミュニケーション力や協働する能力を育てています。臨床実習においては、従来の見学型ではなく、臨床参加型の実習(クリニカル・クラークシップ)を実施しています。卒前教育と卒後教育がシームレスに連続するよう、カリキュラムと卒後研修プログラムの編成にも工夫を加えています。
Q3.ご自身が、医師を目指されたきっかけや受験勉強でのエピソード、人生のターニングポイントなどについて、お聞かせ下さい。
親戚に医者がいたということはありましたが、中学生の頃は英語が好きで外国で仕事がしたいと思っていました。小学校4年の時に父が結核で亡くなり、私も高校の時に縦隔腫瘍が見つかりました。その時にお世話になったのが京都大学の名誉教授の先生で、どこかで影響を受けたのかもしれません。医者になったら自分で患者さんに直接接し、手ごたえのある仕事ができるのではないかと思いました。
私は三重県の伊賀上野で育ち、県立上野高校に通いました。高校は昔風の質実剛健の気風が残っており、先生方も大学の教養レベルのような素晴らしい授業をしてくださいましたので、勉強を楽しみながら充実した高校生活を送ることができました。受験勉強も、体系的な知識や人生で必要となる基本的な考え方を身につける上では有意義なものです。目の前の志望校に合格するというのが直接の目標ですが、受験勉強で身に付けた知識、そして一定期間、目標に向かって全力で努力したという経験は、その後の人生で貴重な財産となります。
学生時代には、卒業後は精神科に進みたいと考えていましたが、大学紛争の影響で環境が整っていませんでした。学生時代から研究室に出入りして研究を手伝っていたこともあり、もう少し勉強したいと思い、基礎医学の大学院に進みました。発生学、先天異常学の研究を続けてきて、苦しいこともありましたが、共同研究者や外国の研究者との交友にも恵まれ、研究生活を楽しむことができたことを有難く思っています。国内では少数派でも、外国の研究者が興味を持ってくれ、「お前の研究は面白い」と言ってくれると励みとなりました。最近若い人が内向きになり外国へ行きたがらない傾向がありますが、日本とは違う文化や考え方、大学や社会のシステムの違いなど、日本にいてはわからないことを学び視野を広めるために、若い時に外国で生活することをぜひ勧めたいと思います。
Q4.最後に、滋賀医科大学 医学部を目指す受験生に求める心構え、メッセージをお願い致します。
医学・医療は日進月歩で、新しい研究成果によって、これまで不治であった病気に対する治療法や新しい薬などが次々と開発されています。医師は、一生勉強が必要ですが、病んだ人を支え助けるという大変やりがいがある仕事です。なお、医師には臨床医、研究者、厚生行政など様々な選択肢があります。臨床医学も、内科、外科、産婦人科、眼科など多くの専門分野があります。人間が好きだという気持ちがあれば、医療は大変面白く、生き甲斐を感じることができる職業です。そういう理解と意欲を持った方に医学部を目指していただきたいと思います。偏差値が高いからという理由だけで医学部に進んだら、仕事の厳しさに後悔するかもしれません。自分が人生で何をしたいか、自分の適性や興味は何か、をよく考えて進路を選択してください。
滋賀医科大学は、医科の単科大学として、学生同士、スタッフと学生がアットホームな雰囲気の中で勉学や研究、診療に日夜励んでいます。大学は、琵琶湖をはじめとする豊かな自然と歴史などの文化に恵まれた滋賀県の湖南地方にあり、京阪神にもアクセスがよく、課外活動、他大学との交流も盛んです。志が高くチャレンジ精神に満ちた皆さんの入学をお待ちしています。
関連リンク 滋賀医科大学ホームページ
現職
国立大学法人滋賀医科大学 学長
学歴
1971(昭和46)年 京都大学医学部卒業
1976(昭和51)年 京都大学大学院医学研究科博士課程修了
主な職歴
1976(昭和51)年 国立遺伝学研究所人類遺伝部研究員
1979(昭和54)年 京都大学医学部講師
1981(昭和56)年 京都大学医学部助教授
1990(平成2)年 京都大学医学部教授
2007(平成19)年 京都大学大学院医学研究科長・医学部長
2008(平成20)年 京都大学理事・副学長
2012(平成24)年 京都大学特定教授(大学院総合生存学館(思修館))
2014(平成26)年4月 国立大学法人滋賀医科大学学長
その間、米国ワシントン大学(シアトル)客員研究員(1980-82)、ベルリン自由大学客員教授(1988-89)、英国レスター大学名誉客員フェロー(1993)等を歴任
その他の主な役職
日本学術会議連携会員(2006-2012)、日本先天異常学会理事長(2006-2011)、日本解剖学会理事(1997-2001、2005-2009)、国際解剖学会議事務局長(2003-2004)、国際周産期医学アカデミー名誉フェロー(2016-)
専門領域
解剖学、発生学、先天異常学