奈良県立医科大学副学長 車谷典男先生
Q1.奈良県立医科大学の特徴についてお聞かせください。
本学は、わが国最古の都・藤原京の条坊制が残る歴史ある地域にあります。建学70年が過ぎましたが、時代の流れとともに、手狭になり、老朽化も目立ち始めたことから、現キャンパスから少し離れた県農業試験場の広い跡地へ、教育・研究部門の移転構想が現在進められています。新キャンパスも藤原京内にあるため、発掘調査も必要であり、高層階の建物を建設できないなどの課題もありますが、現キャンパス同様、学生が愛着を持ち、伸び伸びと勉学に取り組むことのできる、自然と文化が豊かなキャンパスにしたいと考えています。現キャンパスは附属病院群として拡充をはかり、患者さんにとって利便性と最先端の設備を揃えた、全国でも有数のメディカルセンターとなることを目指すことになります。本学へは、たとえば大阪市内から電車で30分ほどの距離にあることから、奈良県を中心に大阪府など近畿圏内からの学生が多くを占めています。下宿などで一人暮らしをしている学生は三分の一ほどです。奈良県内に残る卒業生が多い一方で、他学からの希望者も多く、本学の卒後研修教育プログラムが評価されている結果と考えています。
Q2.奈良県立医科大学の教育の特徴に関してお聞かせください。
2016年の3月に医学教育分野別認証評価を受審し、この程、日本医学教育評価機構から正式な認定結果通知書を受け取りました。トライアルを受けた十数校のうちの一校に含まれていたこともあって、全国の大学に先駆けて認証を受けることになりました。いわゆる「ECFMG2023年問題」をクリアしたことにもなります。建学70周年とキャンパス移転を契機に医学教育の全般的見直しを進めようとしていたところに、分野別専門認証評価受審の話が重なったこともあり、「教育改革2015」として様々な改革を打ち出すことができました。合い言葉は「良き医療人の育成」です。
医師になる者が持つべき教養をしっかり教育していくことを重視しています。物理や哲学などのいわゆる教養科目は1年生のみですが、6年一貫教育授業科目として、医療安全学や医療倫理学、VOP講座(Voice of Patients:患者の声を聴く講座)、医療コミュニケーションなどを集中講義形式で、医師の教養教育の位置づけで実施しています。
一方で、一年生から学年進行性にシミュレータを活用した臨床手技実習を開始しました。医学的メカニズムを学習してから実習を行ったほうが良いという意見もありますが、医師を目指して医学部に入学してきた学生の動機を強化するためにも、自主的な学習態度を養うのにも、患者安全の実際を学ぶためにも、教育効果の高い方法と考えています。学生からの評判は非常によく、10点満点の評価で1/4の学生が満点をつけ、平均8点の評価が得られています。
英語教育にも力を入れています。臨床英語教室を開設し、教授を含めた複数のnative教員に、書く・話す・聞く・読むの4能力を高める小グループ教育をしてもらっています。さらに、海外研究室留学を積極的に支援するプロジェクトも去年から始めました。2年生の3学期の10~12週間の研究室配属です。昨年は13名が、今年は15名が、学内面接を経て海外に出かけています。研究マインドが育まれることを期待しています。
国家試験への対応も非常に重要と考えています。学生が国家試験に合格するかどうかは自己責任という考え方は依然残っています。しかし、国家試験がゴールドスタンダードと考えると、それに合格させるのが医科大学として最低限の教育であるということになります。医師不足やそれに伴った定員の増加や、医師に対しての国民、県民の皆様からの大きな期待を背負っていることも考えれば、大学自体が熱心に取り組む必要があると考えています。
Q3.先生ご自身のことについてお聞かせください。
私は、熱発したりした時に診てもらったかかりつけ医の先生の印象がよかったことが、医者という職業を意識した初めであったような気がします。医学部への進学を決めたのは高校三年生の時でした。当時の住まいは大阪市内でしたが、両親が奈良県出身であったことや、父がたまたま奈良医大に入院していた時期もあって、本学を受験することにしました。卒後は、公衆衛生学に進みました。学生当時、薬害訴訟問題などに触れたことが発端で、医師自身の問題よりも、医療保険や医療制度などのシステムの問題であり、制度はどうあるべきかなどに興味を持ったことが、その理由でした。現代は様々な問題が複雑に絡み合っていることもあり、なかなか問題の本質が見えにくくなってきているように思います。
学生を教育していて、学生の多くは医学、医療は社会から独立した科学の世界と考えているように感じますが、医学や医療は社会に密接に関わっているし、医学、医療に関する問題の所在は時代の変遷とともに変わってゆくものです。医学だけの視点から物を見て、医療を行うのではなく、社会とキャッチボールしながら多角的に物を見る能力がこれからの医療においてより一層重要であると考えます。
Q4.奈良県立医科大学を目指す受験生にメッセージをお願いいたします。
医師になるという「志」を明確に持つ必要があると思います。単純に成績が良いから医学部という理由だけではだめです。「志」を持って、生命の仕組みに興味を持ち、人体の不思議に驚く学生にきて欲しいと思いますし、そういった学生が医師や医学研究者として大成することでしょう。
関連リンク 奈良県立医科大学ホームページ
現職
奈良県立医科大学副学長(教育・研究担当)
略歴
昭和45年 3月 大阪府立大手前高等学校卒業
昭和45年 4月 奈良県立医科大学入学
昭和51年 3月 同大学卒業
昭和51年 4月 奈良県立医科大学大学院入学(社会医学系公衆衛生学専攻)
昭和52年12月 同中途退学
昭和53年 1月 奈良県立医科大学公衆衛生学助手
昭和64年 1月 奈良県立医科大学公衆衛生学講師
平成 3年 1月より平成4年1月まで 客員講師としてThe University of Texas School of Public Health, Nutrition and Epidemiologyへ留学
平成11年10月 奈良県立医科大学衛生学教授
平成18年 4月 奈良県立医科大学地域健康医学教授(組織替えによる名称変更)
平成26年 4月 奈良県立医科大学副学長(兼任)
平成28年 4月 奈良県立医科大学副学長(専任)
現在に至る
学会活動
平成17年5月より20年5月、23年5月より25年4月まで 日本産業衛生学会理事
平成20年10月より22年3月まで 日本公衆衛生学会理事
平成21年第68回日本公衆衛生学会学会長
平成21年3月より26年2月まで日本産業衛生学会近畿地方会会長
平成24年4月より26年3月まで 日本衛生学会理事
平成27年第88回日本産業衛生学会企画運営委員長
他
資格
日本産業衛生学会指導医(平成5年5月)
日本公衆衛生学会認定専門家(平成22年4月)
賞罰
日本衛生学会学会賞(平成23年3月)