高知大学医学部長 菅沼成文先生
Q1.高知大学 医学部の特色(特に良い点)を教えて下さい。
高知大学は、国立大学として地域の医療を支えないといけないという使命が第一にあります。また、それだけでなく、高い技術を高知から世界に発信していこうという考えを持った研究者が頑張ってくれています。
そのなかで一つ目玉になっていくのが、光(ひかり)力学の研究とその臨床応用があります。これまで高知大学の研究者と国内外の研究者が連携して研究開発を行っており、その蓄積の中からベンチャー企業を作ったり、新設大学として認められるようなものが出てきました。高知大学医学部附属病院では、2017年4月に光線医療センターを開設し、この技術を応用した治療に取り組んでいます。現在、そういうものが脚光を浴びるようになってきたところです。
また、高知工科大学が近くに位置しているため、平成24年から医工連携を研究面から取り組んできました。
Q2.高知大学医学部が育成したい医師像、そのための教育カリキュラムの特徴について教えて下さい。
私はよく学生たちに、「国立大学は胸に日の丸がついている日本の代表選手ですよ」と伝えています。今、日本は世界に技術を輸出していく立場の国だと思っています。日本が蓄積してきた科学技術の基礎的なものや、医療の中でつかえるノウハウは一つの極をなしています。欧米諸国が習いに来た方がいい技術を我々は多く持っています。
本学では、ブラジルに行って内視鏡技術や腹腔鏡技術などを指導しています。先日は厚生労働省の医療研修制度を利用し、ブラジルから医師が1か月間滞在し、内視鏡技術の研修を行いました。このように、日本の国立大学に蓄積している技術を学びたいという国は多くあります。
私も国連機関のエキスパートとして多くの国にレントゲンについての指導に行っていますが、国立大学にはそういうことをする義務があると考えます。これはノブレスオブリージュという言葉もありますけれども、高知大学出身の医師には、そういうことをし続けなければならない国だという気持ちでやってもらいたいですね。
今、本学で最も活発に行っているのがハワイ大学との連携です。留学するためにはTOFLEを必ず受けてもらいます。実際に合格点数があるのでそれを目指し、最終的にはハワイ大学の先生が受け入れに必要な学力を持っているかスカイプで判断してもらいます。このような形を取っているので、学生たちも勉強しなければというモチベーションを持ってやっています。留学を目指す学生は、英語でのジャーナルクラブ(論文抄読会)や留学生がいる教室に出入りし、英語力を身に着けます。その中でも特に環境医学教室では外国人が多いので全部英語で発表してもらうようにしています。私は高知大学に赴任して10年以上たちますけれども、そういう意欲を持った学生は毎年一定数います。一定数は海外に関心がある、英語の能力も一定以上あるというような学生が来てくれています。
TOFLEを実際は受けていないのでわかりませんが、大学入試で医学部に入ってくる学生というのは通常、アメリカの大学に入れるくらい点数を取れていると思われますが、英語に対してものすごく自信がない。「英語できません」と必ず言います。英語ができませんというわりには、英語の論文をある程度読め、発音させてみればそれなりに聞き取れる英語でしゃべることができるというレベルにあります。
地域医療についてですが、私たちは決してジェネラリストだけを指しているわけではなくて、一次医療、二次医療、三次医療の全てを構成するメンバーが高知県の医療には必要だと思っています。これを支えていく人材は、最新の情報をどうしても英語で収集しなければなりません。そのくらいのことはできる学力はみんな十分持っていると思っています。けっして我々の入試は易しくないので、自分たちがなりたい医師像に向かって自分たちの能力を最大限に発揮すれば、地方医療に携わりながら最先端の知識に触れている、そういう医師になれると思っています。
医学部では高い学力が必要とされますが、それと患者さんを診察するということは別問題になります。医師と患者の関係はかなり変わってきています。医師が治療方針を決めて患者は従うだけでいいですよという時代ではなくなってきています。現在では、いかに患者さんの気持ちに共感できるのかが非常に大切になってきています。少なくとも自分で教科書を読んで、その要点がわかるといった学力や、サイエンスに関する理解力は絶対に必要だと思います。その基本的な学力を持ったうえで、他者のために自分の持てるものを使って貢献するというそういうものが、心のかなり深いところにないと医師として継続してやっていくことは難しいと思っています。
AO入試ではそういう人を見出そうと思ってやっています。グループワークの中でどういう対応ができるのか、必要最低限な学力を持っているかの見極めをしています。それが正解かどうかはまだわかりませんが、AO入試で入ってきた学生が入学後に成績が振るわないといったことは今まで経験していません。結果として高知大学は入学の年齢がバラエティに富んでおり、例年そういう方がたくさん受験されます。
カリキュラムについては、地域貢献をしなければいけないということで、地域に医師を出し尽くしている状況です。高知県内の様々な病院と連携し、学生の教育にも協力していただいています。また研修制度の中でも、高知県の病院がうまく連携をしながら一緒に育てていくという体制をまずは作っています。医師不足の中でやっているという状況です。大学病院の中にいろんな人材がきれいに蓄積された状況で教えて送り出して行くという体制に早くしていきたいとは思っていますが、現状では、地域の病院の先生方のご協力の中でどうにかやっているというところです。そういう状況の中で卒業生の半数以上は初期研修を高知県内で受けるようになってきています。
Q3.ご自身が、医師を目指されたきっかけや受験勉強でのエピソード、人生のターニングポイントなどについて、お聞かせ下さい。
私の出身は長崎です。長崎の生まれですが、その後、久留米にしばらくいて、父親が香川大学の教員として採用されて四国に移ってきました。大学の時は、岡山大学へ進学しました。
医師研修の時は、東京に行きました。その当時スーパーローテーションが義務付けられていなかったので、恩師からは、「内科の研修でいいじゃないか」と言われましたが、私は国際保健をやろうと思っていたので外科や麻酔科などいろんな科を見てみたいなという思いがありました。そうこうしているときに出身教室の方に、「こういうポストがあるよ」とお声掛けがあって、福井大学へ面接を受けに行きました。
この分野に進むきっかけは、国際保健をやりたかったからです。岡山大学では国際保健をやっている公衆衛生の人が多いです。ご存知かもしれませんが、AMDA(アムダ)という医療による人道支援活動をされている菅波先生も岡山大学公衆衛生学の私の先輩です。そういう人たちがたくさんいらっしゃいました。しかし、国際保健をやろうとする人はあまり大学の中では必要とされていなくて、大学でのスタッフとして雇ってもらうのはなかなか難しかったのですが、ご縁あって福井大学に行きました。
福井大学では環境保健学をやっていましたが、これは昔の名前でいうと衛生学、公衆衛生学です。遺伝子による疾患の発症みたいなものが話題になっていますけれども、それ以外による環境因子によるものがだいたい7割くらいになるよと言われています。そういうものが衛生学、公衆衛生学という分野の範囲となります。環境ということを名前として挙げているのが環境保健学ということです。名前として掲げている大学は数としては少ないと思います。高知大学では環境医学という名前になっています。
私が一番専門にしているのは職業性呼吸器系疾患です。産業活動があっていろんな職業があって、病気になる人が出てきます。その人たちに対する態度は、産業発展を推進する立場をとるのか、その中に出てくるいろんな弊害に目を向けるのか。目をつぶろうとしているのか。日本はもう4,50年前にそういうことに直面しましたが、今まさにアジアの国々がそういう状況にあります。そういう問題についてILOから依頼されて支援を行っていますが、どうやって組み込んでいくのか、政府に対してどういう風に提言していくのか、ということが課題になっています。
活動を進めていく中で、どうしても日本の中の枠組みでやろうとすると、日本の行政の考え方や、その中で動いている識者の考え方とぶつかってしまうことがあります。ただ、我々は幸いなことに国連機関だとか、アメリカのカウンターパートと一緒にやるような仕事が多かったので、すこし離れた視点からその分野の専門家として発言を続けることができました。福井大学にいたときにお世話になった先生がそういう立場でやっていましたので、それは一つのやり方なのかなという気がします。今はもう国際的な環境が整っている時代なので、日本の中での専門家として生きる生き方ではなく、国際的に認知されている、この分野の専門家として英語を使って提言するということが十分できるという話です。そういうやり方をしてきたので、苦労は結構少なかったのかなと思います。
高知大学に移って、高知は同じ四国でも香川とはだいぶ違うと感じました。私は長崎の生まれですが、むしろ故郷の空に似ているなと思いました。空が青くて。あと、日本国内に向いているというよりは、太平洋に向かっているという感じの人たちです。そして人がいいです。高知の人たちは、「お国がこういっているから従いなさい」というのは絶対に聞かないです。けれど、私たちはこうやっていろんなこと考えてやっているので、ぜひお願いしますと、「あなたの心意気に感じて」と、乗ってくれるような感じです。
Q4.最後に、高知大学 医学部を目指す受験生に求める心構え、メッセージをお願い致します。
受験生の皆さんは、一生懸命勉強してこられていると思うので、その学力を信じて受けるしかないと思います。面接の際には、お話を聞かせてもらいますが、いろいろなところで練習された感じでお話をされる方がいます。けれども、その教えてくださった先生のご意見を我々は聞きたいわけではなくて、ご本人の医学部に行きたい、医師になってこういうことをしたいということについて、ストレートに、そのものずばりを聞きたい。本音を聞きたいのでいろいろな質問を投げかけてみたりしているので、もう面接官と真剣勝負するつもりで、自分はこういう人間ですよと、自分を取らないと損するよと、そういうつもりで堂々と、受けていただくのが一番近道かなと、そういう風に思います。
リーダーシップについてもいろんな形があります。カリスマ的なリーダーが必ずしも合格するとは限りません。いろいろなところで下支えするようなリーダーも評価されるだろうし、いろんな形の医師というのがありうるので、例えばブラックジャックみたいな医師だと、固定観念を持つ必要はないです。それぞれの立場のいろんな科がありますので、まさに受験生であるあなたご自身の、こういう素質を持っているよ、天性のものを持っているよというのが、ぴったり合うような診療科というのが必ず存在します。それを出していけるかということじゃないかと思います。面接官は、あなた自身の真摯な姿を見たいと思っています。
関連リンク 高知大学ホームページ
学歴
平成 5年 3月 岡山大学医学部医学科卒業
平成10年 3月 学位(医学博士)取得
職歴
平成 5年 6月 東京都立大塚病院 研修医
平成10年 4月 医療法人水和会水島中央病院 内科医師
平成11年 4月 福井医科大学医学部 助手(医学科環境保健学講座)
平成16年 1月 福井大学医学部 講師(国際社会医学講座環境保健学)
平成18年 2月 福井大学医学部 助教授(国際社会医学講座環境保健学)
平成19年11月 高知大学医学部 教授
(医療学講座予防医学・地域医療学分野(環境医学))
平成22年 4月 高知大学 副学長(研究担当)(兼務)
平成28年 4月 高知大学 副学長(国際連携担当)(兼務)
平成30年 4月 高知大学医学部長 現在に至る